第23話 スフレ村への道中②

 

 

 周りに人がいる状況での初めての野営が終わった。パーティーを組んでいる場合、野営するときは交代で見張りを立てる。知ってはいたが、新鮮な感覚だった。

 

 確かに睡眠中も警戒しているとはいえ、起きている時と全く同じ反応速度で物事に対処できるかと言われれば自信がない。そのために私は魔力鎧を維持するという保険をかけているが、皆がそうではないのだ。誰かが必ず起きているという状況を作った方がより安全というのは理解できる。

 

 その人たちが十分な実力を持っていて、かつ信頼できるならという但し書きが必要だけども。今回の場合だと、誰が夜番になろうと眠っている私の方が感知範囲が広いため、本質的には特に意味はない。

 

 合同パーティーのため人数は多くいる。私は唯一奇数となっている三人パーティーの【サザンの紅】に入り、二人組四交代で夜番をすることに決まった。全員で十六人いるので二日に一回当番が回ってくることになる。

 

 まあ見張りといっても結局座って待っているだけだ。何かが近づいても、視界に入るよりも前に遠隔でマジックボルトを発動して追い払ってしまう。そのため見えないように魔法の練習をしながら、同じ夜番だったリリアと話していた。

 

 至近距離にいる人を警戒しないといけない分、負担はむしろ増えた感じだが、今後もこういう場面は度々あるはずだ。良い経験だと思い、慣れていくしかない。

 

 

 そして移動二日目、相変わらず魔物に見つかりながらスフレ村へ向かっている。

 

 昨日は敵の気配が近づいても至近距離になるまで誰も対処しようとしなかったため、私が対応することが多かった。そのためなのかは分からないが、リーダーにジェスチャーで待っているよう指示をされることが増えた。Gランクの各パーティーに対応させてそれぞれの実力を測りたいのかもしれない。

 

 私が見たところ、うーん。こういうことが得意なんだろうなという、一部に光るものを持っているメンバーもいる。ただ彼らがゴブリン数匹に囲まれてしまうと、現状メンバー単独では対処できないような気がしている。

 

 仮に今回の目標をゴブリンの完全な殲滅かつパーティーメンバー全員の生存とする場合、それなりに難しいように思う。ゴブリンに群がられたとき、果たして【森の守り手】はメンバーをフォローしきれるだろうか。ゴブリンの数が下振れしていれば問題ないのだが。

 

 この合同パーティーの編成は前衛が十一人、後衛が五人。後衛の内二人は治癒師なので、攻撃面では弓と魔法で三人しかいないのだ。よって距離を取ってゴブリンの群れを一方的に殲滅ということは難しい。

 

 正攻法だと前衛が数少ない後衛をがっちりと守りながら進み、押し寄せてくる魔物を抑えながら数を減らしていく展開が予想される。

 

 あるいは少しずつ釣ってきて倒すのかな。それは時間がかかりそうだし、うまくやらないとかなりの数を取り逃がす可能性がある。

 

 

 昨日ある程度実力を見せたおかげか、かなりメンバーからの私を見る目が和らいだ。

 

 私は軽くとは言え走りながらなのであまり参加しないが、それでも少し話すことがある。抑えていても私の魔法が目立つのか、昨日に続いて同じような話をふられる。

 

 今回話しかけてきたのは【ネイルズ狩猟団しゅりょうだん】の剣士だった。

 

「なあ、あんたは魔力をどうやって操れるようになったんだ? 俺のジョブは【見習い戦士】だからよ。氣力を使えるようになりたいんだが、さっぱり感覚が掴めないんだ」

 

「魔法使いを見て覚えた。魔力も氣力もそこは同じ。氣力を操れる戦士を見ればいい」

 

「見て……? どいうことだ?」

 

「魔力や氣を扱う人物の動きを見る。するとその肉から読み取れる動きと実際の動きが一致しない。つまりその差分が魔力や氣力であるということ。その認識でさらに観察して――」

 

「や、もういいや。やっぱ簡単じゃないよなぁ」

 

「まぁまぁ、冒険者の技は飯の種ですからね。隠したい人も多いでしょう」

 

 

 何故か私の説明は打ち切られた。特に隠すことでもないため正直に答えたのだが、私が嘘か誤魔化しか何かを言っているのを前提として、同じパーティーの斥候の人が取りなすようにフォローしている。

 

 どういうことなのだろう。仮に話が理解できないならば質問すればいい。話は理解できるが、私の話が私にしか適応されないものだというなら、そういう人もいるのだという理解が進むのだから、打ち切る意味はないはずだ。

 

 話を聞いて、試してみて初めてそれがどうなのか評価できるはずだが。

 

 これはダルア村に居たときと同じ感覚。話が通じないというか、そもそもこういうものだという固い常識があって、それ以外は理解する気がないのだろう。自分から話しかけてきたので、聞く気はあったが聴く気はなかったのかもしれない。

 

 冒険者にもやっぱりこういう人がいるんだな。昨日もこの話題は軽く流された感じだったし、やっぱりこの保守的で向上心がない感じは国民性なんだろうな。

 

 私は物を知らない人間だ。情報を得られる環境になく、全て観察と考察で自分なりの考えを作ってきた。だからそれが他の人と大きく異なっている可能性は当然あって、一般的な考え方と比較考察することはどちらにとっても有意義だと思う。何といっても、彼ができないと言っていることが、私にはできるのだから。

 

 まぁ、これまで通りだ。意思疎通の取れない動物に懇切丁寧に教え込んであげる義理はないし、労力の無駄だ。

 

 既に皆のおおよその動きは見せてもらった。私が今興味を持っているのは【森の守り手】の魔法使い、エルミーユだ。彼女は私が知らないことをいろいろ知っているようだし、まだ風魔法しか見せて貰っていない。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 何度か描写されていますが、アリシアは魔物や動物と同じくらい人間を警戒しており、気を許していません。自分と同じ生き物という実感もありません。なので当然……。

 

 

 

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