第22話 スフレ村への道中①

 

 

「よし、集まったな。それでは今から出発するが、【グスティの四芒星しぼうせい】、あまりアリシアに突っかかるなよ。これから遠征って時に喧嘩で体力を浪費するなんて愚かな行為だ」

 

「……ちっ、わかったよ。もうやらねえよ」

 

 サザン北門で集合し、これから出発というときに【グスティの四芒星】が釘を刺されていた。喧嘩……喧嘩? 私が名指しされていたけれど、喧嘩なんてあっただろうか? ……まあいいか。

 

 私は気にせず彼らの動きや魔法を観察させてもらうとしよう。

 

 サザンには北門と南門があるのだが、初めてサザンの北門から外に出る。そこから左手へと進路を取り、北東から南西に流れるオール川に架かった橋を渡った。そこまで大きな川ではないが、橋を渡るのもこれが初めてだな。

 

 スフレ村はサザンから西にあるので、橋を渡ってそのまま道なりに進むことになる。

 

 

 それから一日、皆は早歩きで、私は小走りで移動をつづけ野営の時間になった。

 

 合同パーティーだが、食料の準備、運搬、料理、食事等、それぞれの行動はパーティー単位で行うようだった。よって私も少し離れたところに腰を下ろそうとしていたのだが、【サザンの紅】の三人に食事に誘われた。

 

 全員の観察は少しやり難くなるけど、直接話を聞くのもいいかなと応諾する。

 

 改めてそれぞれ自己紹介し、準備を始める。とは言っても、魔法で全て済ませる私の準備何てカバンを開けて食料を取り出すだけだけれど。他の冒険者はたき火を用意するようだったので、それを手伝う。

 

 【サザンの紅】はそのパーティー名通り、サザンで生まれ育った仲良し女三人組だった。名前はリリア、フェルメル、ディアレット。年齢は十七、八歳だ。

 

 私と【サザンの紅】の三人で焚き火を囲んで座り、食事の用意をする。

 

「ねえ、ずっと走り通しだったけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫。いつも外ではもっと速く走ってる」

 

 むしろもう少し速い方が嬉しい。そして私よりもパーティー全員が金属鎧を装備している【グスティの四芒星】が、その重さに慣れていないのか遅れがちだった。

 

「そうなんだ! てかお昼凄い魔法使ってたよね!? 魔法使いってあんま見たことないんだけど、あんなことできるの?」

 

 怒涛の勢いで問いかけてくるのは弓使いのリリア。だけど他二人もこちらに興味津々だ。これが都会っ子というものか……。

 

 リリアの言う凄い魔法がどれのことかは分からないけども。

 

 今日は団体行動だったこともあり、特にGランクのメンバーが気配どころか音も隠さず歩くので、何度も動物や魔物に遭遇することになった。

 

 街道だからと気を抜いていたのだろうか。常に気配を殺すというのは疲れてしまうかもしれないが、多少抑える程度には気を使ってほしいものだ。本番もこれだとすぐに敵に見つかってしまいそうだ。

 

 もしくは私もよくやるように、あえて敵を誘き寄せて討伐の時間短縮を狙っている可能性も零ではない。道中の敵まで率先して倒したい理由は分からないし、それにしては反応が遅れていたように感じるのだが。

 

 そんなこんなで私も参加して敵を魔法で追い払ったり、ついでに見つけたウサギを捕らえて空中で解体したりということが日中にあった。

 

 空中に浮かべた肉を焼きながら話を続ける。

 

「小さいときから練習していた。街でも魔法使いは少ない?」

 

「そうだよー。魔法使いになるにはやっぱり勉強しないといけないし、魔力とか遺伝するらしくて、お貴族様に多いからね。元々少ない魔法使いが貴族街に集まってるから、私達一般庶民が目にすることは多くないってわけ」

 

「なるほど」

 

「アリシアはどうやって魔法を覚えたの? 詠唱もしてなかったし、それって高等技術なんだよね? どっか良い家の子なの?」

 

「そんなことはない。ただの農家出身。村に来た魔法使いの冒険者を見て覚えた」

 

「え、見て……。凄いね!」

 

 一瞬、そんなことあるわけないじゃないみたいな顔で見られたな。今のところは割と観察すればすぐに使えているのだが、他の人はそうではないのかもしれない。

 

 遺伝が関係するとも話していたし、向き不向きで著しく難易度が変わるとか。

 

 焙ったパンで野菜と肉を挟んで食べる。今日は奮発して胡椒という香辛料を買ってきていたので、使ってみた。塩より何倍も高いけれど、いい香りがするし、ピリッと辛みを感じてとてもおいしい。

 

 ただ、まだ何か足りないような気がするんだよ。もう少し工夫したらもっとおいしくなる気がする。

 

「リリアは十二歳で冒険者になったの?」

 

「そうだよ。まだ嫁ぎ先も決まってなかったし、街の周囲で活動してる分には冒険者もそんなに危なくないって聞いたからね。冒険者になって強くなれば長い間若い姿のままでいられて、寿命も延びるって話だし。今回みたいに泊りがけでクエストに行ったことはほとんどないよ」

 

「寿命が延びるの?」

 

「え、聞いたことない? 冒険者を十年とか二十年とかやって引退した人は、その分長生きするって言われてるよ。もちろん危険な職業だし、死ななきゃって前提がつくけどね。なんでも、何百年も前に存在した賢者様はヒューマンなのに二百三十年も生きたとか。ジョブランク五まで到達してたんじゃないかって話もあるね。やっぱり若い姿のまま――」

 

 【サザンの紅】はあまり冒険者として夢があるとか、大成しようとかそういう感じではないのだな。知らない場所や物を見てこそ冒険者になる価値があると思うのだが。

 

 それにしてもいい情報を聞いた。冒険者として強くなると寿命が延びるのか。

 

 この国の一般的な寿命は六十前後じゃないだろうか。ダルア村何て、五十過ぎが最高齢だった位だ。それが何をどうしたら二百三十まで延びるのだろうか。

 

 まず思い浮かぶのはステータス補正だが、いくらジョブランクが高いとしても寿命に対してそれほどの影響があるようには思えない。

 

 そうすると……なるほど。

 

 冒険者として強くなる、その時点でジョブが設定してある可能性は高く、生産系ジョブではなく戦闘系ジョブなのだろう。戦闘系ジョブの特徴と言えば、魔力・氣力・神力等のエネルギーを扱う能力に長けることだ。これらの習熟が寿命に影響するのかもしれないな。

 

 世界を見て回りたい私にとって、これは大きな情報だ。何といっても、世界はきっと広いから。

 

 いい話を教えてくれたお礼に、おやつとして買った果物を振る舞う。別に高いものではないが、【サザンの紅】の三人は喜んでくれた。

 

「アリシアはどうしてそんな年で冒険者になったの?」

 

「狭い村が好きではなかったから外に出た。世界を見て回るために、冒険者は都合が良かったから」

 

 私なりに様々な葛藤があって村を出ることを決めたわけだが、要約してしまえばこんな陳腐などこにでもあるようなお話だ。

 

 周りの人たちが私と同じ人とは思えなかった。閉鎖的な環境から外に出たかった。外に出ればいろんな物があって、いろんな景色が見れて。

 

 そしてきっと、同じ生き物なんだと私に感じさせてくれる人たちがいるのではと思ったのかな。

 

「それだけ聞くとよくありがちな、田舎から出てきて冒険者になってすぐに消えて行っちゃう人たちみたいな感じだけど。アリシアならきっとできるよ」

 

「どうして?」

 

「うーん、何て言ったらいいのかな。初めてアリシアを見たときはこんな小さな子がこのクエストに来て大丈夫なのかなって思ってたんだけどさ。ここまでの道中、アリシアは私たちなんかより明らかに強かったし。なんか、雰囲気があるんだよね。サザンにいる普通の冒険者とは違う……、凛としてるというか、世界で一人になっても生きていけそうっていうか」

 

 そんな風に感じるものなのか。要因を少し考えてみたが、良く分からない。小さな子供ながら地元を離れ、自立して生きているからそのように思ったのかな。

 

 でも、それは村での努力が報われたことになる。まさに一人でも生きて行けるように訓練してきたから。

 

「そう、ありがとう」

 

「えっ! かわいっ――」

 

 突然リリアが自身の口を手で塞いだ。どうしたのだろう。特に敵の気配等は感じないが。私に感じ取れないレベルの敵がいる? 周囲への警戒を強めながらリリアに尋ねる。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや、なんでもない」

 

 リリアは首を振って口を噤んだ。

 

 

 

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