第21話 緊急依頼②

 

 

「スフレ村のゴブリン退治に参加される方は、こちらに集まってください」

 

 ギルドの職員が人を集め出したので、私もそちらに向かう。しばらく待って徐々に人は来たが、集まったのは全てヒューマンで私を含めて十六人か。募集していた二十人には届かないようだ。

 

 ギルドにはもう少し人はいたが、これ以上集まってくる様子はない。利益が出ないことで有名なゴブリンだからかな。緊急依頼で多少の割り増しがあるとはいえ、それでも野営して何日もかかると考えると報酬は安い。あるいは単純にHランクの冒険者しか残っていないのかもしれないが。

 

 呼びかけに応じたのは四人パーティーが三つ、三人パーティーが一つ、そしてソロの私だ。

 

 動き・装備・ステータスの観点から一つのパーティーだけ実力が抜けており、年齢も少し上で二十代半ばだ。他の人たちは十代と若くてあまり強くないように見えるが、どうなんだろう。私は実際に冒険者が戦うところをあまり見たことがない。思ったより強かったり弱かったりする可能性は十分にある。

 

 私自身も若い人たちには実力を疑われている雰囲気で、特に男四人のパーティーには何故か敵視されている。

 

「おい、お前みたいなガキが来るんじゃねぇよ。荷物の配達でもやってろ」

 

「私はGランク冒険者。要件は満たしているはず」

 

「はぁ!? 邪魔だっつってんだよ!」

 

「そう」

 

 私の参加にとても不満がある様子だ。ただでさえ人数が足りていないのにさらに人数を減らそうとするとは、余程私の実力を低く見積もっていて足を引っ張ると思われているのかもしれない。あるいは自分たちの実力を高く見積もっていて、人数は必要ないと思っているのかもしれない。

 

 ここに集まっている時点で参加の要件は満たしているはずで、私の実力はGランク相当には冒険者ギルドが認めているはずだ。冒険者ギルドの判断を疑いながら、冒険者ギルドの依頼を受けるのか……。

 

 冒険者ギルドが疑わしいのなら、クエストを断ればいいのではないか。それとも、お金に余裕がなくて受けざるを得ないとか、何か理由があるのかもしれない。

 

 良く分からないし、別に興味もないのでその話を聞き流す。

 

 

「もうこれ以上集まりそうにありませんので、このメンバーでクエストに行ってもらいます。Eランクパーティーはハルトさんたち【森の守り手】だけで合っていますか? ……それではハルトさん、この合同パーティーのリーダーとして指揮をお願いします」

 

「分かった。今回リーダーになったハルトだ。Eランクパーティー【森の守り手】のリーダーをやっている。うちのメンバーは剣士、斥候、治癒師、魔法使いだ」

 

 どうやら呼びかけを行った職員と【森の守り手】というパーティーは面識があるようで、すんなりと話が進んでいく。その後各々が自己紹介をする。他の人と一緒にクエストを受けるのは初めてだが、こんな感じなんだな。

 

 Eランクパーティーが一つ、Gランクパーティーが三つ、ソロの私が今回の参加メンバーだ。しっかり経験を積んでいそうな人がリーダーにいて良かった。

 

 Eランクパーティーの【森の守り手】が男二人に女二人。Gランクパーティは【グスティの四芒星しぼうせい】、【ネイルズ狩猟団しゅりょうだん】、【サザンの紅】。それぞれ男四人、男三人女一人、女三人となっている。

 

 偶然だろうが、Gランクのパーティー名は全て地名から取っているのだと思う。グスティ、ネイルズという地名を資料で見た覚えがある。そしてサザンはこの街の名だ。

 

 仮に私がパーティー名をつける機会があったとしても、ダルアの名前は付けたくないな……。

 

 メンバーは合計すると男九人に女が七人。おおむね冒険者の男女比と一致している。そして全部で弓使いが一人、斥候が二人、治癒師二人、私を含めて魔法使い二人か。

 

 ここサザンにおいて冒険者の割合的には近接物理系、遠距離物理系、斥候系、治癒系、魔法系の順番で少なくなるはずだが、今回はかなりバランスよく集まっているようだ。ただ一つ、弓持ちが少なく前衛に偏っているのが難点か。

 

 【森の守り手】のように必要な役割がきれいに集まっているパーティーは稀で、だいたいは治癒師がいなかったり、魔法使いがいなかったりする。

 

 今回の合同パーティーだと私を敵視していた【グスティの四芒星】は剣・剣・槍・メイスと近接物理系しかおらず、特別偏っている。

 

 近接物理は十分に数がいるようだし、私は純粋に魔法使いとしてふるまった方が良いだろう。

 

 話が進み、スフレ村には二日かけて徒歩で向かうことになった。ゴブリンの集落が見つかったのはそこからさらに半日の距離だ。

 

 片道二日半と村での聞き込みにゴブリン退治。後は集落の解体など後始末もありそうだ。そうなると最短でも往復七日はかかるだろうか。私一人だとおそらく片道一日で辿り着くので少しまどろっこしいが、団体行動とはこういうものだろう。

 

 報酬の分配についてや注意点等話し合った後、野営もあるから準備して半刻後に北門へ集合と決まり解散する。

 

「おい、……おい!」

 

 冒険者ギルドから出ようとしていると、何故か急に後ろから先程の男が掴みかかってきたので回避する。

 

「何?」

 

「お前魔法なんて本当に使えんのかよ!」

 

「ん……じゃあ、また後で」

 

 合同パーティーの挨拶が始まる前にも私に話しかけてきた男だったが、私が魔法を使えるのか聞きたかっただけのようだ。さっきの打ち合わせでもそう答えたはずだが。

 

 少し待ったが他に質問は来なかったので、そのまま冒険者ギルドから出る。急遽受けた仕事だが、冒険者の動きを観察できる良い機会だ。

 

 それにEランクパーティーの魔法使いはメインは土魔法で、補助程度に風魔法も使えると話していた。実際にジョブも【土魔法使い】となっている。丁度二つとも私が見たことのない魔法だ。是非とも参考にさせてもらおう。

 

 さて、市場に行って食料とおやつを買わなければ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 幼少期にキャンセルされたテンプレ展開、ゴブリンの集落が再来。そして遅ればせながら冒険者ギルド恒例行事の絡んでくる冒険者が登場しました。

 

 そして後者はあっけなくアリシアにスルーされました。

 

 

 

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