第20話 緊急依頼①
遠出から帰ってきた次の日。今日は旅に出て初めての休日だ。
昨日サザンに帰還して冒険者ギルドにクエスト完了の報告をしに行ったところ、メルに連日クエストを行っていることを心配されてしまったのだ。私はまだ華奢な子供だから、体力のなさを不安視されているのかもしれない。
振り返ってみると、物心ついてから休日というものを意識して取った記憶がない。ダルア村にいた頃、雨の日などは農作業や外出は休みとなっていたが、家の中でできる訓練を続けていた。
遠出した中で、日が落ちてから光魔法で道を照らしながら歩いている人がいて、私もそれを使えるようになったところだった。今日もその練習をしようと思っていたのだが。
ただ、多くの冒険者を見てきた専門家が心配しているのだ。ほとんど独学で偏った知識しかもっていない私は従った方が良いだろう。
そうした経緯で今日は休日とすることに決め、いつもより眠る時間を伸ばし、少し遅めに宿を出てみた。
まずは冒険者ギルドに行って面白いクエストがないか確認しよう。今日は休むことにしたが、そういったクエストにはいつ出会えるか分からないし、期限まで余裕があるようなら受注しておいてもいいからね。
その後は街を見て回って、昼からは喫茶店というお店に入ってみようと思う。
この国は朝と夕の一日二食で、お腹がすいたら間食を取る人もいる。私も幼いころからできるだけ多く食べるようにしていた。
だが隣国は一日三食で、さらに追加でおやつを食べながらお茶を飲んだりするそうだ。喫茶店はそうした隣国から入ってきた文化で、最近サザンに店ができたらしく、噂が聞こえてきたのだ。
この国に他国の文化を受け入れる余地があるのかと、驚愕した記憶がある。そのため、休日に何をしようかと考えたときに真っ先に思い浮かんだ。
それにしても、一日三食にさらに間食か。それだけたくさん食べるということは、隣国の人たちはこの国の人たちより体が大きいのかもしれない。倍食べるからと倍大きくなるわけではないだろうが、なぜか巨人のごとき人たちに囲まれる自分が頭に浮かぶ。
幼い頃は同年代の子たちよりも背が低く、ようやく平均を超えたかと思ったのに、井の中の蛙だったのか……。
これからは一日四食……取れる? 無理じゃない? 無理をしない程度にやっていくしかないよ。
冒険者ギルドに到着し、クエストボードへ向かう。今日はここに初めて来た時のように混む時間からはずれており、まばらに人がいる程度でとても快適だ。
受付を見ると、メルはいない。今日はメルもお休みなのかもしれない。
クエストボードに目線を向けてGランクのクエストを順番に見ていくと、初めてスライム討伐のクエストを見つけた。
スライムは私が住んでいたダルア村の近くにもいたし、サザンに来るまでにもいた、どこにでも生息するといわれる魔物だ。ぽよんぽよんとしたジェルの様なもので体を構成しており、中心付近に核を持つ。
移動速度は遅く、積極的に人間に攻撃してくることもないため、基本的には無害とされる。体長二十~三十セトルほどのサイズであるため、スライムの核と呼ばれる弱点部位を踏みつければ子供でも倒せるほど弱い。そして森ではごみや死骸等を食べてくれるため恩恵もある。
だから積極的に討伐されることはないのだが、何らかの要因で異常に繁殖してしまうことがある。そうなると共食いを始め、大きな個体が増える。
大きくなった個体は体が大きく物理的にスライムの核まで遠くなり、棒などでうまく攻撃しないと倒せなくなるし、その体に飲み込まれる恐れもある。
さらに成長することもあるようだが、そうなる前にだいたい冒険者によって駆除されることになる。
少し面白そうだと思ったが、依頼票を読み進めると場所がサザンから離れていた。さすがにスライムのためだけにそこまで行きたくないな。何か同じ方面で受けられる依頼があるとよいのだが、なければ今回はやめておこう。
そうしてまた新しいクエストに目を向けていると、何やら受付の奥にある事務所が慌ただしくなってきた。何か新しいクエストが追加されるのかもしれない。
すると事務所からバタバタと職員が出てきて声を上げた。
「緊急依頼です。対象はE~Gランク。目的はスフレ村の近くに集落を作ったゴブリンの殲滅です。集落は中規模という目撃情報があります。募集人数は二十人程度です。ご協力お願いします」
クエストボードに新しい依頼票が貼られる。その場にいた冒険者たちが集まってくるが、この人の少ない時間に二十人か。
緊急依頼とは文字の通り早急に対処すべき問題が発生した場合に出されるクエストだ。強制依頼と違って強制力はないものの、通常のクエストよりギルドへの貢献度を高く評価するという話だ。
今回の場合だと、村の近くにゴブリンの集落ができたという話だし、人に被害が出てゴブリンが加速度的に増えていく前に対処したいということだ。ゴブリンが人を襲いだすと、人を苗床にしたり、他所から合流したりしてどんどん数が増えていくからね。
悠長にしているとゴブリンの数が増えすぎて村が大きな被害を受けるかもしれないし、そうなっていくと強制依頼が出されることになってしまう。
領都サザンとスフレ村はさほど離れていないとはいえ、徒歩だと二日の距離だ。街道沿いの村だからサザンには馬で来たとは思うが、これから冒険者たちが向かう時間もかかるし、単純に往復だけでも発見から時間が経過してしまう。
それにしてもまたゴブリンか。昨日まで遠出していた時にも何度も遭遇し、計八匹討伐した。これは目につかない所に途方もない数が潜んでいそうだな。
どこにでもいる魔物と言えばスライムやゴブリンが特に有名だ。増えすぎなければ森の掃除屋と便利に思われているスライムに比べ、ゴブリンはことさらに嫌われている。
一部の魔物は人を食べるだけでなく、さらって弄んだり、苗床に使ったりする。ゴブリンもその一種だ。
ゴブリンだけがそうするわけではないのだが、それほど強くないのに数ばかり多く、目につく場所に出てくる頻度も高いため、特に毛嫌いされているのだと思う。
魔物は人間を食べるが、人間だけを食べるわけではない。植物や動物を食べることもあれば、魔物を食べることもあるし、同一種族の魔物同士でさえ食べる種もある。
そうやって魔物は成長し、ただの成長という言葉では表せないような変化を迎える。人はそれを進化と呼んでいる。進化すると魔物は体が倍の大きさになったり、角が生えたり、知能が芽生えたり、種族や個体ごとに違った変化をする。
スライムやゴブリンは目撃される個体数が多いため、幅広い進化先が判明している。
今回の依頼では目撃情報という前提がついていたので不確実だが、仮に正しいとすれば、集落が中規模ということなので五十匹から百匹のゴブリンがいる。そして集落ができた場合、五匹に一匹位が進化した上位種になっていると言われている。つまり十匹から二十匹だ。
緊急依頼は通常依頼より貢献度を高く評価すると聞いているが、居合わせていて人数が足りない状態で断った場合どうなるだろうか。直接評価が下がるかは不明だが、少なくとも心証は悪くなりそうだな。
自身の経験値としてはどうだろう。ゴブリンというのは手慣れた敵だが、敵の巣に乗り込むというのはこれまでやったことがない。それに他の冒険者と合同でクエストを受けたこともない。これはGランクの内に試しておきたいことでもあるし、いろいろ勉強になるかもしれないな。
よし、やろう。休日の予定だったが、予定変更だ。喫茶店に行くのはこのクエストを終えてからにしよう。
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