第11話 領都サザンを目指す①
フォートンではあまり目立つ場所で動きたくないため、目についていた果物、チーズ、魚の干物等を手早く購入した。
市場で買い物を終え、その後は門前に移動。少し入った場所にある建物に背をつけ、露店で買った串焼きを食べながら、しばらく街の賑わいに耳を傾ける。
おそらく朝出発して夕方到着する人が多いから、通りの通行量が増えるのもその時間のはず。だがもう昼だというのに大層賑わっている。私が人の多い光景に見慣れていないだけだろうか。
人々の顔も明るいし、まだこのあたりは良く分からず想像の域を出ないが、あるいは治安や統治体制が影響しているのかもしれない。
いろんな人がいて、いろんなことをしゃべっていて、いろんな情報を私に教えてくれる。うん、時間を取ってよかった。今知りたいことはだいたい知ることができたと思う。
一つ目は、ここでは馬という使役した動物にひかせた馬車が移動によく使われていること。またフォートンから領都サザンへは馬車による定期便が出ていること。料金については話していなかったが、今はお金をあまり使いたくないし、体も鍛えたいので定期便に乗る気はない。
二つ目は、ここからサザンに移動する人はちらほらいて、馬車を所有した商人がその行程に六日かかると話していたこと。またその過程で二つの村、フォルン山脈、一つの村を経由する必要があり、村では通行税が取られること。
馬という生き物はフォートンの入り口で今日初めて目にした。体長ニメトル弱の四つ足の動物だ。移動の足にする位だし、徒歩より速く動けるのだろう。馬車の場合、荷物をひくからそこまで速いとも思えないが。
そんな馬車で六日の距離か。小さいながら山脈を越えないといけないらしいが、これは初めての体験だ。私の足で暫定十日の旅路だと見積もっておこう。
また村で通行税を取られるという話には衝撃を受けた。ダルア村に通行税なんて存在しなかったから、大きな街だけのものだと思っていたのだ。
まぁ、あんなところで通行税を取ったら行商人さえ来なくなって、村が詰んでしまうよね。村が街道沿いにあるというだけでお金が入ってくるのか……。
三つ目は、商人が少数ながら護衛を連れていたこと。行商人が護衛なしで活動していたダルア・フォートン間より多少危険になるということだろう。
最後に、水魔法で水を生み出し、飲料水として売っている人を見かけたこと。
これが最も大きい。これまでもジョブ【旅人】のスキルである【飲料水生成】があったので、飲み水という面では困っていなかった。しかし水魔法は存在自体を知らなかった。使い方もだいたい理解できたので、移動時間で練習しよう。
その場を離れ、無事に門から外に出る。幸い私の顔を知る人物と遭遇することもなかったし、ここからはもう村人に追われる心配はないだろう。
一度振り返り街を眺める。ほとんど通り過ぎただけに過ぎないけれど、新しいものをたくさん見た。ここが私の訪れた初めての街だ。
よし、気合を入れてサザンに向かおう。
◆◆◆
移動開始初日。思った通り馬車はそこまで速くないなというのが今日の感想だ。道を進む荷馬車を何度か見かけたが徒歩の何倍も速いということはなさそうだった。
何か勘ぐられても嫌なので近づくことはしなかったが、余裕でついていけるペースだろう。それに馬は頻繁に休みを入れないといけない様子だった。おそらく馬車で一日に進む距離は七十ケトルほどだと思う。
とは言え、この速度で私が持てる何倍もの量の荷物を運べると考えると、便利なのだろう。身体強化をすれば一時的に重いものは運べるようになるけれど、維持し続けるのは大変だ。それに、体が大きくなるわけでも手が増えるわけでもないから多くの荷物は運べないのだ。
一日七十ケトルで考えると馬車で六日の距離にあるサザンまで、山を考慮しなければ四百二十ケトルということになる。一つの領でこれだけの大きさがあるとなると、この国はかなり広いのかもしれない。
ダルア村の雰囲気から、勝手に衰退した国だというイメージを持っていたが、どうなんだろう。この領が特に広いだけかもしれないし、大陸の面積が広いだけかもしれない。まだ何とも言えないか。
馬車並みのスピードで移動したものの、昼過ぎにフォートンを出たこともあり、今日は村まで辿り着かなかった。明日はもう少し速度を上げて、二つ目の村まで進むのがいいかもしれない。一つ目の村にはあと少しでついてしまうだろうし、回避してしまおう。
まだ宿に泊まった経験もないし、サザンにつくまでにどこかの村で試しておきたい。
◆◆◆
移動二日目。フォートンの付近から草原が続いていたが、だんだんとまばらに木を見かけるようになってきた。たまに遠くに魔物の気配を感じることがあるので、確かに戦えない人は護衛が必要かもしれない。
頭の中で剣で魔物に応戦する場面を、状況に合わせていくつもシミュレーションする。小休止の時間等で剣の訓練を続けているものの、やはり村にいた頃よりは時間が減っている。移動時間も無駄にしないようにしなければ。
旅にも慣れてきたのか、今日はかなりの距離を踏破できた。夕方前には村に辿り着き、宿で一泊する。村に入る際にしっかりと通行税六十リンをとられた。だが通行税を取るだけあり、ダルア村と違って数百人は住民がいそうだし、居住区が木柵で囲われている。
別に自分の生まれた場所であるダルア村に大した思い入れはないと思っていたのだけれど、私の物事を見る基準にはなってしまっているようだ。ずっとあそこで暮らしてきたからな。
この村に対してなぜか羨むような、せこいと思うような気持が生まれるのは何なのだろう。自分で森に入れるようになってからは、空腹を我慢するようなことはなかったはずなんだけど。
それにしても、この通行税は遠方まで進む場合とてつもない勢いで降り積もっていくように思う。これで商売が成り立つのだろうか。
多くの村や街を経由して進む場合、商人が村を回避したりはしないだろうから、人数分の食費や宿泊費と通行税で小さな商いはできなくなってしまうだろう。何か条件付きの減免措置のようなものがあるのかもしれない。
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