サザン領を旅する

第10話 初めての街

 

 

 目が覚めてすぐに、自身の体に異常がないか改めて確認する。一応分かってはいるけど、初めてのことだし念のためにね。体力は回復しているし、何かに襲われた形跡もない。魔力鎧は維持できてるし、虫刺されなんかもなし。問題ないね。

 

 よし、初めての野営だったが無事に夜が明けた。夜間は虫や小動物が寄る程度だった。魔力鎧を維持している以上その程度は問題にならない。今までの訓練が実を結んだようだ。

 

 ダルア村から持ってきた内あまり日持ちのしない燻製肉等で朝食を済ませ、早々に出発する。フォートンで宿泊するつもりはないため、今日中に最低でもフォートンから出立するところまで進まないといけない。

 

 

 その後順調に歩みを進め、お昼に差し掛かる前に生まれ育った森を抜ける。初めて見る草原と、遠くに木塀に囲われた大きな街が見える。広い、そして大きい。開けた草原と明るい日差しがこれから歩み出す広い世界を暗示しているようだ。

 

 街の規模もこれまでの私の経験ではなかなか言い表す言葉が思い浮かばない。あれだけの大きさなら、ダルア村の何十倍か、もしかしたら百倍近くの人がいるんじゃないか。

 

 そのまま街へ向かうと街の門にしては小さな入り口に突き当たったが、閉まっている。ここは人がおらず、街に入ることができないようだ。ダルア村からやってくる人なんて本当に限られてるしね……。この入り口は使用されていないようだ。

 

 街の北側に回ると、今度こそ大きな門とそこに並ぶ人たちが見えた。こちらは領都サザン側の街道だからだろう。

 

 これまでにないほどの視界を埋める人の数に驚きを感じる。実態がどうなのかは分からないが、人が多いというだけでダルア村とは比較にならないほど活気を感じた。

 

 初めて見る景色といい、わくわくして早くも旅に出てよかったなと思えてくる。

 

 フードを目深にかぶりながら列に並んで聞き耳を立てる。ここでは通行税を取っているだけで、特にどこから来たのかとか何が目的かなんて問い詰めている様子はない。平和なんだなと思いながら自分の順番を待ち、なけなしのお金で通行税を支払い中に入る。

 

 ダルア村での生活においては行商人を主としてお金でのやり取りは存在していたものの、村の中では物々交換が主流みたいな感じだった。そんな環境だからお金を得るのは大変で、私の集めたお金はほとんど通行税で使い果たしてしまった。

 

 いつも通り、顔を動かすことなく周辺視野やその他感覚で周りを観察しながら、通りを歩く。

 

 一鉄貨は一リン、一銅貨は十リン、一銀貨は百リン、一金貨は千リンの価値。十枚で一つ上の硬貨と同額になるよう決まっている。これらの上にもまだあるが、庶民が通常目にする貨幣はこのあたりだろう。

 

 通行税八十リン。露店の串焼き一つニリン、一食十リンほどか。村よりずいぶん高い。こんな額で皆暮らしていけるのだろうか。

 

 疑問に思いつつ市場まで進むと、食べ物の値段が下がったことに気づいた。成程、門前の露店は割高なのか。場所代が上乗せされているのかもしれない。

 

 通りを歩く人に目を向けステータスを確認していたが、その多くはヒューマンのようだった。ただ一割ほどは獣人がいて、さらに一度だけエルフというのを見かけた。

 

 街にでれば獣人がいるというのは聞いていたが、エルフという種がいることは初めて知った。獣人にもいろいろ種類があるようだし、その内人類にはどんな種族がいて、どんな特徴があるのか調べないといけない。

 

 事前に誠実な商売をしているおすすめの店舗は聞いている。幾つかの店で物価を確認しつつ、予定していた雑貨屋へ入る。

 

「いらっしゃいませ、本日のご用件は?」

 

「主に革とその他雑貨を持ってきた。買い取ってほしい」

 

 こんな子供でもちゃんと客として扱ってくれるらしい。持ってきた換金物をカバンから取り出してカウンターに積み上げる。商人に確認してもらっているうちに、雑貨屋の中を見まわした。

 

 街にはいろんなものがあるな。私みたいな人があちこちにいて、物が集まってくるのだろうか。

 

 わざわざ買わずとも簡単に作れるようなものまで売ってあるが、自分で作るのは時間を取るから、面倒で買ってしまうという面もあるんだろう。

 

 あ、防水布がある。このあたりは雨が降り続くようなことは少ないが、まだ雨対策が弱いからこれは買っていこう。

 

「確認が終わりました。合計で金貨六枚と銀貨三枚になります」

 

「これを買いたいから差し引いてくれる?」

 

「それでは差し引きまして、金貨六枚と銀貨一枚になります」

 

「ありがとう」

 

 カバンに入りきらずに括り付けてまで換金物を持ってきた甲斐があった。金貨六枚と銀貨三枚、六千三百リンで売れたことになる。これは結構いい値をつけてもらったような気がする。内訳を聞くと魔物の革が高い感じか。

 

 これだけあればかなり長期間食いつなぐことができる。ダルア村に対してフォートンがそうであるように、サザンだとまた物価が高くなるかもしれないが、かけ離れていることはないだろうし。

 

 まだ金属製品は見ていないが、革の相場は分かった。体の成長期にあまり高いものを買うつもりはないので、新人冒険者向けの革鎧位は今持っているお金でも買えそうだ。

 

 それにしても、図らずも私が物作りだけで生きていけることが証明されてしまったな。しばらくやる気はないが、いつかゆっくり時間を取れる時が来たら、やってみてもいいかもしれない。

 

 防水布をカバンにしまい、店を出る。この街で一番の用事は済んだので来た道を引き返す。

 

 

 お金も手に入ったことだし、行きがけに市場で見つけた、これまでに見たことのない食べ物を買っていこうかな。

 

 そんなことを考えていると一人の男が目に入った。冒険者風の格好で、二十過ぎの年に見える。

 

 ――――――――――人物情報――――――――――

 名前   クルス

 種族   ヒューマン

 年齢   23

 ジョブ  剣士Lv.3

 

 ステータス補正

  筋力  G-

  持久  G

  敏捷  F-

  器用  F+

  魔力  H-

  氣力  G+

 

 天賦スキル

  火起こし

 スキル

  氣力感知

 ――――――――――――――――――――――――

 

 私以外で初めて天賦スキルの持ち主を見た。天賦スキルにレベルがない……私の【学習】は天賦スキルだからレベルがあった訳ではないのか。

 

 天賦スキル【火起こし】がどの程度の規模なのか実際のところは不明だが、字面だけを見ると便利だが火魔法で、あるいは火打石で代用可能に思える。代用可能な天賦スキルというのはこういう感じなのかな。

 

 スキルの数が少なめだが、この人はどの位の立ち位置なのだろう。まだ冒険者のサンプル数が少ないので判断できない。でも天賦スキルから考えると、特別剣士に向いているというわけではないのかもしれない。

 

 さて、切り替えて市場に行こう。

 

 

 

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