第9話 閑話①

 

 

「おい、トム。アリシアちゃんがどこ行ったか知らないか。ネルソンたちが探し回ってる。朝薬草を取りに出たまま戻ってこないってよ」

 

「いや……、知らないよ。あいつどこで何してるとかあんま話してくれないし」

 

「そうか……」

 

 ここはダルア村。俺はこの村の村長の長男、トムだ。この村には飛び切りの美少女が住んでいて、それが今話に出てきたアリシアだった。

 

 俺の二歳下なんだけど、一目見てすぐに惚れ込んだね。容姿では圧倒的に飛びぬけていた。本当に同じ村人かって三度見位したものだ。親父に何度か連れて行ってもらった隣街のフォートンにもあんな可愛い子はいなかった。

 

 春の日差しの下、黄金に光輝いて見える金髪。晴れ渡ったの空のように吸い込まれてしまいそうな、空色の瞳。まるで精緻に作り上げられた陶器のように白く滑らかな肌。そして身にまとう超然とした雰囲気。

 

 天使ってこんななんだなって。金髪に空色の目が神様に祝福を受けた者の証と聞いたことがあるけど、成程確かにとうなづける。

 

 あまり表情を動かさないからそこが気になるってやつもいた。けどそんな中でもたまに、ほんのわずかに微笑んでたりするのを見ると、俺にはアリシアしかいない、俺がこいつを守るんだって思えてくる。

 

 でも、だからかな。好きだからこそよく見てたんだ。

 

 アリシアは浮世離れした雰囲気で、村の子供とは違う感じだったし、いろんなことに興味を示して外部の人間の話を聞いたりしていたようだった。それほどアリシアが直接会話してたって訳じゃないんだけど、村に居ないことも多いアリシアが、外の人間がいる時は村のどこかにいることが多かったんだよね。

 

 これはきっと……村人の中でもたまにいるんだよな。ちゃんと継ぐ家があるってのに、どっかに消えちまったりとかさ。

 

 何とかこの村にアリシアをつなぎ留めたくて、気を引きたくて色々やった。悪口を言ってみたり、スカート捲りに失敗したり、悪戯でリベンジしたり。親父に婚約者にしてくれって頼みこんだりもした。その時も、良くも悪くももっと何か反応してくれると思ったんだ。でも次の日もアリシアは普通に話すだけだった。

 

 何か遠い場所の出来事でも話しているかのような。村への愛着とか、俺たちへの興味とか、あんまりないのかもしれないと思った。

 

 そうなるのが嫌で、はっきりとそれについて考えないようにしていた。けど、アリシアがいなくなっちまったって聞いて、まず感じたのはやっぱりそうかという悔しさと、諦めの感情だった。

 

 朝出かけたって聞いたけど、もう夕方前だもんな。あいつめちゃくちゃ要領がいいから、こんなに遅れるなんて通常の事態では考えられない。これはきっと……。

 

 

 アリシアが森で獣にやられちまったのかとか、心配しないのかって? ないと思うよ。アリシア、強そうだったもん。

 

 俺はやり始めて十日もする頃にはきつくて剣の稽古をやめちまったような奴だけど、なんとなくそう感じたんだよね。アリシアの肩を叩こうとしたり、体に触れようとすると、自然にするっと避けられたんだよな。後ろから近づいた時だって、本当に自然に。

 

 あれって、こっちの動きを見切って、足捌きだけで避けてたんじゃないかな。剣の先生だってあんなじゃなかったもん。あいつ稽古に一回も参加してないはずなのにさ。

 

 だからきっと、アリシアは村を出ていくことを選んじまったんだなって。ただ、それだけのお話。

 

 はぁ、本当に可愛かったよなぁ。村にいるのが何の冗談だって位の可愛さだった。でも村に落ち着くような感じじゃなかったもんな。もう少し時間があると思ってたんだけど、いくら何でも九歳になったばっかりで出ていかなくたっていいのによ。そんなにここでの暮らしが嫌だったのかなぁ。

 

 しばらく引きずりそうだぜ。

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 このお話で第一章は終了です。ここまで読んでいただきありがとうございます。世界観やアリシアの旅への動機を伝えたいプロローグ的な章でした。うまく書けているとよいのですが。

 

 今後も引き続きお付き合いいただけると、大変嬉しく思います。

 

 できる限り続けていきたいと思いますので、モチベーション維持のためによろしければ★やフォロー等での応援よろしくお願いします。

 

 

 

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