第12話 領都サザンを目指す②
移動三日目。昨日はダルア村を出てから初めてちゃんとした場所に泊まったわけだけど、寝床が柔らかい分少し快適かなという程度だった。魔法で防いでいるから、野宿でも風に吹かれるということもないしね。
宿でも侵入者が現れるかもしれないし、突如宿泊客に襲われるかもしれない。結局野宿にしても宿にしても、どちらにしろ備えなければならないし、警戒するのは変わらない。
今回は個室をとったのにこれだ。雑魚寝部屋で寝る位なら、まだ野外の方がましだ。あくまで魔物より人を気にした方が良いような魔物の脅威が低い地域での話であって、もっと魔物が強い地域だと状況が変わってくるのかもしれないけれど。
このあたりはもう視界が遮られる程度の密度で木が生えている。もう少し進むと浅い森といった感じになるのだろう。今日から山に差し掛かるはず。魔物も出ると昨夜聞いたので、少し警戒して行こう。
その後特に何事も起こらず、山を一つ越えたところで今日は野営にする。標高一ケトルもない程度の山だけど、後幾つか越えて行かなければいけない。
今のところ、山だからと特に変わったことはないな。体力的にもそこまで負担を感じないし、体調面でも好調を維持している。
一息つこうとカバンを下ろし、水筒を取り出そうとしていたところで、気配察知に反応がある。
即座に木剣を引き抜き右手に構える。それほど大きくないが、飛んでいて、数が多い。また、魔力感知にも引っかかる。魔物だ。
既にあたりは薄暗い為、上空に照明としてファイアボールを設置する。
少し待つと見えてきた。動物のそれより少し大きい程度の蝙蝠の魔物だ。数は十二。明らかにこちらへ向かってきていて、私と戦いたいようだ。
近寄ってくる前に魔法で全てを終わらせることもできたが、接近するまで待つ。不規則な飛び方をした群れが上空のわずかの距離までやってきた。
目前の距離まで近づいてきた先頭の一匹を木剣で横凪にし、戦闘開始。近寄る蝙蝠は剣で打ち払い、手の届かないところを飛ぶ蝙蝠は火魔法を針状に成型したファイアニードルを連続で射出し、落ちてきたところに剣でとどめを刺す。
少数が回り込もうとしてきたが、ファイアニードルの射出速度を超えられない。すべて撃ち落としてとどめを刺した。
まぁ、こんなものだな。たぶんゴブリンとそう変わらない程度の魔物だろう。
ダルア村にいたころから売却できる素材が不明な魔物を倒した場合、魔石だけ取り出すことにしている。売りに出す機会がなかったため数はある程度たまっているけど、今回も大した魔物じゃないし、お小遣い程度だろう。
魔石のある場所は魔力感知で見えている。いつも便利な無属性魔法で抉って魔石を引き抜く。
無属性魔法はどんな形にもできてとても便利で、もうこれだけでいいんじゃと思っていた時期もあった。しかし火魔法を覚えたことで両者を比較し、威力が出ない欠点を持っていることが分かった。
今回は小さな弱い魔物だったので解体の際に皮膚を切るようなことも楽にできたが、今後強い魔物と遭遇した場合どうなるか分からない。
戦闘に用いる場合に威力不足となれば、決定打として使うことは難しく、敵のバランスを崩したりするような補助的な使い方になるだろうか。もちろん魔力量でごり押すことは可能だが、あまりやると燃費の良さという無属性魔法の長所の一つを消すことになってしまう。
火魔法は無属性魔法に比べて威力が高いものの、素材が熱で劣化してしまうのが難点だ。そういう意味では、既に再現に成功した水魔法に期待している。早くこれを実戦レベルに持っていかないといけない。
魔石を抜き取った死体を無属性魔法の力場で集め、上空で照明として浮かべていたファイアボールで焼き尽くす。
臭いがするし、野営の場所は少し移動しよう。
◆◆◆
移動四日目。起きてすぐは晴れていたのだが、朝食を済ませて移動する頃には徐々に西の空に雲が出てくるのが見えた。
昼前になるといよいよ暗くなっていき、後一刻もしない内に雨が降りそうだった。降り出せばすぐに止みそうな感じはないし、今日の移動は終わりとなるかもしれない。
そんなことを考えながら大木を探し、落ち着ける枝を見つける。ひょいと数メトルほど跳躍して木の枝に飛び乗った。枝に腰掛け、バランスを確認する。ここで寝ることになるかもしれけれど、大丈夫そうだね。
安定して座れる枝のもう一つ上に、周囲の木も利用して防水布を張り、雨避けにする。
まぁ、体にまとう魔力鎧を維持し続けたなら、雨に濡れることはないんだけどね。それだけでは進歩がないし、待ち時間はここで魔法の練習をしようと思う。
いつもはなかなか見られない高い場所からの景色を眺めながら、無・火・水属性と現在使用可能な三つの魔法で球体を作り、お手玉をする。その数を徐々に増やし、空に浮かべ、形を一つずつ変えていく。
何十個も乱舞させてみたり、組み合わせて絵画のようにしてみたり。自身のイメージと現実が寸分違わず一致するように制御能力を鍛える。
あ、雨が降ってきた。
◆◆◆
それからも大きな問題はなく、旅を続けた。
結局四日目はあれから移動ができなかったため、山脈を超えるのにさらに二日かかった。またその間にゴブリンの襲撃を三回受けた。やはりゴブリンはどこにでもいるものらしい。人里からは離れているけど、気配察知の届く範囲で駆除しておいた。
そして村で一泊。その後一日移動し、とうとう領都サザンへとたどり着く。
今回馬車で六日と言われた距離を七日で移動することになった。徒歩だと一日四十ケトル進むと聞いていたけれど、おそらくそれは人類の多くを占める非戦闘系ジョブやジョブがない人の話だったのだろう。
雨で半分以上潰れた日もあったし、今後はだいたい馬車の移動速度を参考にして旅の計画を立てればよさそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます