第5話 旅の準備の計画立案②

 

 

 今後の成長計画を立てるために、天賦スキル【学習】への理解から取り掛かる。これがおそらく自由への鍵、私の根幹をなすものだ。またそのためには前段として自身のステータスを理解する必要がある。

 

 天賦スキルの獲得前と後の自身の差異を感じ取り、【学習】とは何なのか朧げに分かってきていた。さらに自分の内面に潜っていると、自身や他者のステータスを閲覧できるという感触を得る。それから試行錯誤した後、以下のような情報を得られた。

 

 ――――――――――人物情報――――――――――

 名前   アリシア

 種族   ヒューマン

 年齢   7

 ジョブ  見習い旅人Lv.5

 

 ステータス補正

  筋力  H

  持久  G-

  敏捷  H

  器用  H-

  魔力  H

  氣力  H

 

 天賦スキル

  学習Lv.1

 スキル

  長歩き 整頓

 ――――――――――――――――――――――――

 

 この世界にはジョブとそれに属するスキルがある。上記のステータスは私がいくつか設定できるようになっていたジョブの中で【見習い旅人】を設定した際の情報だ。

 

 まずステータスについて既知の内容からまとめる。洗礼式である程度説明があるらしく、狭い村でも知ることができたのだ。

 

 一つ目はジョブについて。ジョブにはランク一~五の分類があり、ランクの十倍がジョブレベルの上限とされる。ジョブレベルはジョブの熟練度を指しており、そのジョブのスキルやジョブに適した技能を磨くことで上昇する。自身の熟練度が基準の為、私のステータスではジョブを設定した直後にレベル五となっている。

 

 また、人類は生まれた時点では皆ジョブなしとなっており、ジョブを得るためにはそれが可能な者に設定してもらう必要がある。一度設定してもらえれば、そのジョブのレベルが上限に達した場合、上位のジョブが解放されると自動的に切り替わる。上位のジョブが複数解放されているときは、その中から適するものが自動的に選択されるようだ。他のジョブへ変更したい場合は、再び設定してもらう必要がある。

 

 

 二つ目はスキルについてだ。ジョブにはいくつかのスキルが属しており、その中で自身の持つ技能と適合した場合、スキル化される。

 

 今回の場合だと、【見習い旅人】ではいくつかスキルが得られる可能性があり、その中で私は現在【長歩き】と【整頓】が得意で経験を積んでいたため、すぐに二つのスキルが得られたということだろう。各々のジョブでいくつのスキルの獲得機会が存在するかは不明だが、結果として同じジョブでも人によって獲得できるスキルは違うことがあるようだ。

 

 

 三つ目はステータス補正だ。ステータス補正はジョブごとに固定で、レベルは関係がないようだ。最低H-~最高S+までの27段階あるとされる。

 

 これは名前の通り補正であり、絶対値ではない。元の力を補正の分だけ伸ばす効果があるようだ。ステータス補正が同一の他者間で身体能力に差異を感じたので、これは確かだろう。

 

 ステータス上で見える値が所詮補正であり、本人の能力を意味しないというのは重要な情報のように感じる。ステータスから実力を決め打ちするようなことはできないということだから。

 

 

 次に自身のステータスを閲覧することでいくつか分かったことをまとめる。どうしても考察する上で【学習】がノイズになるため、汎用的な知見ではない可能性もあるのだが。まあ今必要な情報は自分のことだけなので問題はない。

 

 ――――――――――――――――――――――――

 解放ジョブ

  見習い旅人 見習い狩人 見習い農民 見習い戦士

 ――――――――――――――――――――――――

 

 これはジョブ設定をする際に閲覧できる情報だ。

 

 解放ジョブとして並んでいるジョブは、私が【学習】を得てから他者のステータスで閲覧したことのあるジョブ、もしくはその下位のジョブだ。ジョブランク一と分類されるジョブ、通称見習いシリーズと呼ばれる。

 

 本来は適性のあるジョブだけが解放ジョブとして表示されるらしく、全くない状態から他者のステータスを閲覧した際に増えた私とは明確に異なる点だ。解放ジョブが増えたのは【学習】の影響だと思うが、元が全くない状態だったのはなんだろう。さすがに私に適性があるジョブが一つもないというのは考えにくいし、考えたくない。あるいは本来ジョブを得るはずの十歳に至っていないことが影響しているかもしれない。

 

 ステータス閲覧だけではジョブランク二以降は追加されなかったので、それ以降は他の人と同様に解放条件を満たさなければならないのだろう。実際に、設定ジョブを変更していると解放条件を満たしたのか新たなジョブが解放されたのだ。

 

 【見習い農民】を設定してそのスキルを確認していると、【見習い農民★】という表記に変わり、解放ジョブに【農民】が追加された。★はジョブのレベルが上限に達したことを指しており、【農民】の解放条件に【見習い農民】のレベル上限達成が含まれていたのだろう。

 

 スキルはジョブに属しているため、ジョブを変更したとき【長歩き】【整頓】という二つのスキルは消え、再び【見習い旅人】を設定すればスキルは復活した。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――

 学習Lv.1

  Lv.1:観察眼、ジョブ設定

 ――――――――――――――――――――――――

 

 そして今回の確認作業の目的である【学習】について。この記載を見る限り、【学習】というスキルは複数の能力を包含しており、レベルの上昇に伴いそれが解放されていく感じだろうか。

 

 一つ目の観察眼というものに文字通り以上の能力があり、これまで培ってきた感覚の強化に加えて、自己や他者のステータスの閲覧が含まれるようだった。

 

 また二つ目のジョブ設定はそのままの意味だろう。他に何かできるような感覚もない。とはいえ、これのおかげで洗礼式の不参加によるデメリットが発生しないのだ。感謝しないといけない。

 

 自身のジョブ設定では、すんなりとジョブを設定できた。これが他者のジョブも設定できるような力であるかは不明だし、今後も試す機会はないだろう。

 

 洗礼式でジョブ設定を受ける時は、このジョブにつこうとしているがよいかという確認が見えると聞いている。確認というのがどのようなものかは不明だが、他者のジョブを変更しようとすれば露見する可能性が高い。これは例えば対人戦時に相手のジョブを勝手に変えるようなことはできそうにないということだ。

 

 教会が高いお金をとっていることから、ジョブ設定は限られた者にしかできないと推測できる。他者のジョブを勝手に変えることにメリットはなく、お金を取るようなことをすればすぐに注目の的だ。避けるべき展開だろう。

 

 

 まだレベル一の能力しか解放されていないが、レベルが記載してあるということは少なくともレベル二はあると考えられる。上限はここから読み取ることはできない。今後【学習】の伸ばし方を探っていくことになるだろう。

 

 天賦スキルは残念ながらその存在しか聞いたことがなく、中身については何も知らない。百人程度の村だから、私の前に一人位いてもよさそうだが……。全村民のステータスチェックが必要だな。

 

 

 これで今後の成長方針が見えてきたね。当初の予定通り自身の身体能力や技能を伸ばす必要がある。同時に幸運にも洗礼式を経ずして得られたジョブを成長させるのだ。

 

 様々なジョブを切り替えられるのが私の強みとなるのだろうし、多くのジョブを育てなければならない。どれくらい手を広げるかは今後の成長速度と相談かな。ジョブだけを鍛えれば良いなどということにはならなかったが、これにより私の幼さという弱点を埋められる可能性が出てきた。

 

 まだ【学習】の伸ばし方が分かっていない点は今後の課題だ。

 

 

 最後に……。考察のために後回しにしていた、衝撃的な事実。私の父は農家でありながら、ジョブが【旅人】だったのだ!

 

 【見習い農民】と【農民】の関係から、【旅人】は【見習い旅人】の上位ジョブなのだと思う。

 

 父は現家長であり、農家に生まれた長男だ。わざわざお金を出してジョブを設定してもらう以上、家業に活かし難いジョブを設定する利はないだろう。

 

 農民系のジョブが存在しているにもかかわらず設定していないということは、父には適性がなかった可能性が高い。村の仕事で活かせるようなスキルを得られる他のジョブにも適性がなく、街へ行くこともあるからと仕方なく【旅人】を設定したのだろうか。

 

 実際の職業とジョブが一致しない。悲しい現実だが、そういうこともあるのかと学んだ。適性がないと神様に保証される農家。そう聞くと、やはりという感覚がある。つまり、父のやり方は非効率だと考えていた私の感性は間違っていなかったのだ。

 

 私は正気だった。おかしいのは周りなんだ。その確証を反芻し噛み締めていると、これまでに積もったもやもやが少しは晴れるような気がした。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 後書き

 

 そういえば、婚約とかいう女性主人公におけるテンプレ展開が発生しましたが、村で暮らす生涯という嫌なものにまとめて分類され、ほとんど意識することもなく速攻で逃げ出す選択をしました。

 

 村にいたら婚約破棄されるように仕組んだり、話を展開できたのですが。

 

 幼稚園にようやく入れるか位の年で大人の仕事に正論パンチしてしまうような怪物だから、仕方ないね。

 

 

 

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