第4話 旅の準備の計画立案①
それまでも漠然と将来は村を出ようと考えており、自身の能力を伸ばそうと努力してきた。ただその時期は結婚を回避する意味でも成人前と考えていたように思う。しかし今回洗礼式より前と計画は変更され、具体的な未来として見るようになった。
一年が春夏秋冬の四節、一節が九十日、一日が十二刻。一刻が六十
十歳の冬の節から旅の出発をいつにすべきか逆算していく。まず十歳の春の節には洗礼式の申し込み手続きが発生してしまう。手続き後に自ら出奔したとばれてしまった場合に何か勘ぐられるのも避けたい。旅立ちはできれば九歳の内がいいね。
また冬になってしまうと、いくらこのあたりの気候が穏やかとは言え旅はし難くなっていく。冬は採集や狩猟による食料の自給ができなくなる。そして流石に気候が変わる程遠くへはすぐに行けないと思うが、北の方へ向かうとここより寒くなるという話を聞いたこともある。
旅に出たらなるべくすぐに村からの距離を稼ぎたい私としては、最悪でも夏の序盤、できれば春の間に出発してしまいたい。暫定で旅立ちは九歳の春の節としておこう。これで猶予期間は約二年間と定まった。
ここを旅立てばそれ以後子供だからという甘えは許されず、自立して生活していくことが求められる。九歳での旅立ちとなると通常十二歳、遅いと十五歳で働き始める人達と比べ、大きなハンデを背負うことになる。どちらかと言えば、早い時期に親を亡くしてしまった子たちの境遇に近いか。
このハンデをどのようにして埋めるか。せっかくこのような天賦スキルを授かったのだから、準備期間で徹底的に鍛えるべきだろう。
そのためにも、まずは【学習】について詳しく知る必要がある。まだその名前から推測できる漠然としたイメージしか持っていないのだ。これは自身の成長方針を立てる上で必要となるため、最優先で取り掛かろう。そしてその方針に基づいて、旅に耐えうる体と技能を作る。
旅に出られるだけの力を得られたなら、装備や道具を用意する必要がある。これまでも村に来ている行商人から、旅にどのようなものが必要か、どのような危険があるか等話は聞いている。物が少ない村ではあるが、自作も含めて最低限は用意しよう。
最後に、旅に出た後の展望だ。どこへ行くのか、どのように生計を立てていくのか。初めの行き先は最寄りの街であるフォートンとなるのだが、ここに滞在するのは避けたい。フォートンは私の住むダルア村から近く、人の足で二日の距離に存在する。また村から街へ出稼ぎに出ている者も多い。
村民が探しに行ける場所で、顔見知りもいるとなれば見つかるリスクがあり、見つかれば村に連れ戻される。同じ村の子供が一人で街に出ているとなれば、理由を言いつくろうことは難しいから。
出来ればフォートンには入らないか、入ったとしても最短で用を済ませて出たいところだ。村で調達できる物資には限りがあるため、一度は寄ることになりそうだけど。ただ、街に入るには通行税が必要なんだよね……。
村民が出稼ぎに出ているし定期的に来てくれる行商人もいるため、フォートンの情報は詳しく手に入る。しかしその先の情報となると、あまり手に入らない。
以前あったように冒険者が再び訪れることがあれば、追加で聞き込みするくらいか。その冒険者にしても、この村の簡単な依頼でやってくるのは必然的に若い人たちなわけで、あまり遠方の情報に期待は持てそうにない。
フォートンで調査期間を確保することができない以上、その後の旅はリスクを伴う出たとこ勝負となるだろう。それでも生きていられる能力か、あるいは換金可能な物を準備できればリスクを減らせるだろうか。
そして生計を立てる手段。おそらく貧民救済の側面があることから審査が容易で、子供でも登録可能な冒険者ギルドに所属して生活することを初めに思い浮かぶ。出稼ぎに行った村民の中にも、他の職業につけなかったりして冒険者になった人もいるそうだ。
私は世界を見て回ることを望んでいるため、とても長い期間を旅に費やすことになる。そうなると、移動しながらでもお金を稼げるような職業が望ましい。旅しながら稼げる職業は限られるし、他のギルドだと所属するためには資格が必要になると聞いている。
資格の問題を無視して旅をしながら稼ぐ職業を考えると、行商人や吟遊詩人が思い当たった。ただ、私が子供であることや初期資金もないことから、冒険者よりよほど難しいように思える。
うん、持ちうる情報からは冒険者が最適だと判断する。若干の憧れのようなものも感じているし、丁度いい。私は冒険者になろう。
では冒険者として生きていくのだとして、旅が続けられるだけの資金が得られるだろうか。いくつかは聞いてはいるが、引き続きクエストの情報を集め、こなせるだけの能力が必要だ。
まずはこんなところだろう。これで漠然と見えてきた。あとは……。
本当はどんなところに行きたいか、見てみたいのか、遠い未来に思いをはせたいのだけれど、このような閉鎖的な環境で得られる情報はあまりにも少ない。具体的な展望は、旅に出てある程度の生活基盤を得てから考えよう。
この村で生涯を過ごすことに比べたら、なんだってましだろう。今は村を出るための準備に全力を注ぐ。
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