伝説の一投【ショートショート】

世界スポーツ選手権で、新競技「スマホ投げ」が発表された。


ルールは単純明快だ。


・投げたスマホの飛距離。


・SNSでどれだけ話題になるか。


競技用スマホが飛び交い、画面が砕け散るたびに観客が大歓声を上げる。

技術よりユーモアが勝負を分ける奇妙な競技に、世界は熱狂していた。


決勝戦


タナカ選手が登場すると、スタジアムは静寂に包まれた。

ポケットから取り出したのは、会社支給のスマホ。


「これ、俺のじゃないんだよな……」

観客の笑い声を背に、タナカは大きく振りかぶった。


スマホは空高く舞い、スタジアムの外へ消えていく。

記録は歴代最高飛距離。

だがその瞬間、タナカの耳には、あの通知音が聞こえていた。


オフィスへの帰還


タナカは会社のオフィス前に立っていた。

静かにスマホを取り出し、呟く。


「丁寧に返さないとな」


次の瞬間、タナカはスマホを全力でオフィスの窓に向かって投げつけた。


ガラスを突き破り、スマホは部屋の奥にそびえる金庫に直撃。音を立てて粉々に砕けた。


「すごい……」その場に居合わせた社員が呆然とつぶやく。

「あの一投、絶対に記録更新だ……」


SNSの爆発的反応


・「#スマホ投げ伝説」


・「#タナカの最後の一投」


・「#会社解雇不可避」


スポンサー企業の公式アカウントからもコメントが。

『タナカ選手、これは弁償どころでは済みません』


その後、タナカの行方を知る者はいない。

ただ、SNSにはこんな噂が広がっていた。


『タナカ選手、どこかで新しいスマホを手にして次の大会に挑むらしい』


スタジアムに残る伝説の記録と、SNSの炎上だけが、彼の存在を語り継いでいる。

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