AI補佐【ショートショート】
「これがあれば、うちの停滞した企画も一新されるはずだ!」
部長は高らかに宣言した。
彼が導入したのは最新鋭の生成AI。
導入初日、社員たちは興味と不安が入り混じった表情で会議室に集まった。
「成功の秘訣について具体的に教えて下さい?」
一人が尋ねると、AIは淡々と答えた。
「人々が本当に必要としているものを見極めて、それを売ることですね」
社員たちは一瞬黙り、顔を見合わせた後、苦笑が漏れる。
「まあ、それができたら苦労しないんですけどね」
誰かがつぶやき、微妙な空気が漂う中、別の社員が次の質問を投げた。
「じゃあ、その“必要なもの”って具体的に何ですか?」
AIは一瞬間を置き、冷静に答えた。
「それを知っていれば、私はここで答える立場ではなく、あなたたちの指導者になっていますね」
その答えに社員たちはまた一瞬黙るが、すぐに笑いが漏れた。
「……まあ、そうだよな。確かに」
笑いの中にはどこか納得の色も混じっていた。
部長はため息をつきながら頭を抱えた。
「誰か、このAIを解雇する方法をAIに聞いてくれ……いや、解雇できるのか?」
結局、AIは“部長補佐”という謎の肩書きを与えられ、会議室の隅に設置された。
社員たちはそれ以降、突っ込んだ質問を避け、無難な話題だけをAIに投げるようになった。
しかし、それでもAIの返答は妙に的を射ており、社員たちに微かな不安と頼もしさを同時に感じさせる存在となった。
ある日、新人がつぶやいた。
「次のプレゼン、うまくいくかな……」
AIはすかさず答える。
「それを知りたければ、あなた自身が成功の本質を理解するべきです」
新人は目を見開き、それから微苦笑を浮かべた。
「……なるほど、そういうことですか」
会議室には軽い笑いが広がり、空気が少し柔らかくなった。
AIは万能ではない。
それでも、彼らはなぜかその存在を手放せなくなっていた。
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