ホットな誤算【ショートショート】

「これが俺のリベンジだ!」


タカシは胸を張りながら街角のカフェに入った。

大学時代、英語の成績は常に最下位。

留学経験のある同級生から小馬鹿にされた日々を思い返すと、悔しさが湧いてくる。「だからこそ、俺はここで変わるんだ!」


カナダのワーホリプログラムを利用し、異国の地で成長することを決意したタカシ。実際に働き始める前に、まずは現地での英語力を試すことにした。


入ったカフェは地元でも評判の人気店。

木のぬくもりを感じるインテリア、カウンターに並ぶカラフルなシロップのボトル、漂うコーヒーの香り。

「こんなところで自然に英語が話せれば、俺もついにクールな国際派だ」


タカシは期待に胸を膨らませ、レジの列に並んだ。

順番が来た瞬間、練習してきたフレーズを放つ。


「ホットコーヒー、プリーズ!」


言い終えると同時に、ドヤ顔で店員の反応を伺う。

しかし、店員は困惑の表情を浮かべた。


「Sorry, could you repeat that?」(もう一度、言ってくれますか?)


俺の発音がおかしいのか?


いや、間違いなく練習したフレーズだ。


もしかして、北米ではホットコーヒーを頼むのはマナー違反とか…!?


タカシは焦りながらもう一度言い直す。

「H-hot…coffee…?」


店員はようやく「ああ、なるほど」といった表情を浮かべ、レジを操作した。

「これで伝わった!」と安心しながら、タカシは席で待つことにした。


数分後、テーブルに届いたトレーを見て、タカシは固まった。

そこにあったのは、透明でキンキンに冷えたコーヒーだった。


慌ててレジに戻り、カップを指さしながら言った。

「エクスキューズミー!ホットコーヒーを頼んだはずなんですけど!」


店員は笑顔で答える。

「Sorry! We only serve cold brew here.」

(申し訳ございません。当店ではコールドブリューのみご提供しております。)


その瞬間、タカシは目の前が真っ暗になった。

つまり、最初から存在しないメニューを頼んでいたのだ。


帰り道、タカシは真っ赤な夕陽を見上げて深いため息をついた。


「英語の発音を気にする前に、メニューを読む力が必要だったな…」


頭上をカラスが飛び交い、まるで彼を嘲笑うように鳴き声を上げた。

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