アイデアの値段【ショートショート】

「見てくれ! ついに完成したぞ、“AIアイデア製造機”だ!」

工場長が胸を張り、銀色に輝くヘルメット型機械を誇らしげに掲げた。


――だが、記者にはどう見ても炊飯器の改造品にしか見えなかった。


「……それ、何ができるんですか?」

記者は眉をひそめながら尋ねる。


「脳内の考えを形にするんだ! お前が思い浮かべたことが、そのまま具体的なアイデアとして出てくるぞ!」


工場長は胸を張りながら、ニヤリと笑った。


「……本当にそんなことができるんですかね」

記者は半信半疑でヘルメットを手に取る。


「試してみるか? 記事のネタに困っているんだろう?」


工場長の言葉に促され、記者は渋々ヘルメットを被った。


ガタガタガタ! ピカッ!


機械が光り、机の上に紙が一枚現れる。


記者が手に取ると、そこにはこう書かれていた。


『一人暮らし老人の孤独を描く:隣人たちの秘密』


記者は思わず唸る。

「……これ、意外と使えるじゃないですか。テーマが重いけど、読者の関心を引きそうですね」


工場長が得意げに頷く。

「だろう! これがこの機械の力だ!」


記者は紙を握りしめながら、さらに思った。

――この機械なら、もっと面白いネタが出せるかもしれない。


「もう一回、お願いできますか?」


工場長は小さく頷き、机の端を指差す。

「いいだろう。ただし……エネルギーが必要でな」


机の端には料金表が置かれていた。


『アイデア追加:1件につき10,000円』


記者は少し迷ったが、先ほどのアイデアが思いのほか良かっただけに、次の期待感が抑えられない。


「……まあ、いいネタが出るなら安いもんですね」


財布を取り出し、工場長に札を渡した。


「準備はいいか?」

工場長がスイッチを押す。


再びヘルメットを被った記者は目を閉じた。

――「もっと深い真相に迫れるネタを……」


ガタガタガタ! ピカッ!


机の上に、再び紙が現れる。


記者が紙を手に取り、期待を込めて広げた。

そこには、こう書かれていた。


『一人暮らし老人たちの生活の裏側に迫る:親族との意外な関係』


記者は息を飲む。

「……これは良い! 最初のテーマをさらに深掘りする視点か。これなら読者を引き込める!」


だが、紙の隅に書かれた小さな文字が目に入った。


『さらなる真相を得るには、追加10,000円をお支払いください』


記者はしばらく黙った後、机を叩くようにして立ち上がった。


「……ここまで来たら、途中でやめられるか!」


勢いよく財布を取り出し、追加の1万円を渡す。


工場長は満面の笑みを浮かべる。

「その意気だ! 次はさらに核心に迫るぞ!」


機械が低く唸りを上げ、さらに深いアイデアを出力する準備を始めた――。

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