未来投資【ショートショート】

「聞いてくれ!俺、未来に投資したんだ!」


タナカが喫茶店の席に腰を下ろすなり、満面の笑みで言った。


「未来?」

僕はアイスコーヒーを飲みながら聞き返す。


「そうだ!メタバースだ!」

タナカは胸を張る。

「バーチャル空間で土地を買ったんだよ!」


その勢いに押され、僕は冷静に問いかけた。


「で、その土地、何に使うつもりなんだ?」


「もちろん豪邸を建てるに決まってるだろ!」


思わず笑いがこみ上げてきた。

「お前、現実ではアパートの家賃も払えてないのに?」


タナカは平然と反論する。

「分かってないな。これからは現実じゃなくて、バーチャルの時代だ!」


・現実ではギリギリ生活しているタナカ


・それでもバーチャル空間での成功に全力を注ぐ男


・妙に誇らしげな態度


僕は頭を抱えたくなったが、話の続きが気になった。


「それで、税金とか管理費はどうするんだ?」

「そこだよ!」

タナカはドヤ顔で言い放つ。

「固定資産税ゼロ!これがバーチャル投資の魅力だ!」


数日後。


タナカから電話がかかってきた。


「おい、助けてくれ!」

声が切羽詰まっている。


「今度は何だよ?」


「豪邸を建てようとしたら、隣のやつにクレームをつけられたんだ!」


「……隣のやつってバーチャルの話だよな?」


「そうだ!」


「なら問題ないだろ?」


タナカはため息混じりに答える。

「俺の家が隣の庭の景観を台無しにするってさ。あいつ、細かすぎる!」


僕は驚き、想像を膨らませる。


クレームを送ってくる隣人のアバター。

そして隣人の家から見える、タナカが建てようとする派手な豪邸。


たしかに景観を阻害するかも。


「……でも、バーチャルなんだし、無視してもいいんじゃないか?」


「それがさ、向こうがリアルな法律事務所を使ってきたんだよ!」


僕は絶句した。

「バーチャルの土地争いに、リアルな弁護士かよ……」


タナカの「未来投資」は、どうやら現実以上に厄介な問題を抱えているようだ。

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