鏡越しの成功法則【ショートショート】

「またタナカさん、昇進ですって!」


休憩室で聞こえてくる噂話に、俺は思わず苦笑い。

タナカは企画を3回連続でミスしている。

でも彼が評価されない日なんて、見たことがない。


・顔がいいから、とにかく通る。


・会議でぼーっとしていても「存在感が素晴らしい」と褒められる。


・おまけに、上司は「あの笑顔には魔力がある」と言い切る始末だ。


この会社、終わってる。


だが、どうしても堪えきれず、俺は直接聞いた。


「タナカさんって、どうしてそんなに成功できるんですか?」


タナカは爽やかな笑顔を向ける。

眩しい。

それがまた腹立たしい。


「簡単だよ。毎朝、鏡に向かってこう言うんだ。『俺は世界一だ』ってね」


次の日、俺はデパートに行き、特大サイズの鏡を探した。

ただの鏡じゃ駄目だ。

何か特別な力を感じられるものがいい。


案内されたのは、ひときわ立派な枠に収まった30万円の鏡だった。

迷った末にカードを切り、自宅に届けてもらうことにした。


数日後、部屋に届いた鏡を前に、俺は深呼吸する。

「俺は…最高だ」


鏡の中の自分が、いつもより少しだけ自信ありげに見えた。

その日、初めてタナカが言った「鏡の力」を少しだけ信じてみようと思った。


鏡の中の自分が微笑みながらこう言った。

「いい鏡だね。でも、タナカはもっと高いやつを使ってるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る