論争禁止ルール【ショートショート】

社員たちは会議室に集められていた。

壇上には、社長が手にしたスライドを高々と掲げている。


「諸君、聞いてくれ!我々が抱える問題を解決する完璧なルールを発見した!」


社員たちは静まり返った。

社長の「完璧」という言葉が出たときに限って、事態は大抵悪化するからだ。


社長が掲げた四つのルール:


・全員が賛成意見を述べること


・反対意見は即却下


・会議は5分以内で終了


・社長が常に正しい


「素晴らしいだろう?」と、社長は満面の笑みを浮かべる。


社員たちは拍手を送るが、その表情は引きつっている。


「では早速、試しにやってみよう!何か意見のある者は?」


社員Aが手を挙げた。

「提案ですが――」

その瞬間、社長が遮った。


「反対意見は禁止だ!」


「いや、賛成意見なんですが――」


「だったら言わなくていい!」


その後の会議は凄まじいスピードで進行し、終了時には誰も何を決めたのか覚えていなかった。


廊下に出た若手社員たちは小声でささやき合う。

「これ、会議じゃなくて、ただの社長劇場じゃない?」


その言葉が耳に入ったのか、翌朝、新たなルールが発表された。


「新しいルールを加える!」

社長は得意げに言った。

「五つ目――『つぶやき禁止』だ!」


社員たちは顔を見合わせた。


そして全員、心の中でこう思った。


「「そのうち、心の声も禁止されるんだろうな……」」

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