第39話 ルミナとメイベル(4)
ある日、ルミナたちは深い森の奥で未発見と思われる遺跡を発見した。迷いに迷って偶然に辿り着いたそこは、神殿のようだった。
森を切り拓いた区画に建つ石造りの小さな神殿。歴史に忘れ去られた建物は、すっかり魔物の住処になっていたが、四人での連携をものにしたルミナたちは難なく魔物を倒して、最奥にあった宝を手に入れた。
「迷子も悪くないな!」
栄の神と思われる神像。目玉に大粒の宝石が嵌められた逸品を手にファランが言った。
その日は、遺跡に泊まることになった。
夜遅くに魔物だらけの森の中へ入るよりも、安全を確保したこの場所のほうが良いという判断だった。朝を待って出発することになる。
ルミナは神殿の入口前に座り、夜空を見上げた。都市から遠く離れたこの場所では、星がよく見える。トレジャーハンターになってから同じ空を色々な場所から見上げてきたが、決して飽きることはなかった。
「いやー、すごい収穫だったね! 明日はご馳走かな。まあ、その前に森を出ないとだけどね」
メイベルが楽しそうに話しながらルミナの横に座った。一緒に星空を見上げる。
「綺麗だねー」
「うん」
「ねえ」
メイベルがルミナの肩をつついてきた。
「あの二人って付き合ってるの?」
声をひそめて言うメイベル。その指さす先にはファランとライラがいた。ルミナたちから離れた場所で隣同士に座り、同じように空を見上げている。何か話しているようだが、ここまでは聞こえてこない。楽しそうだ。
「そうみたい。直接聞いたわけじゃないけど」
「この女だらけのパーティーで、リーダーはライラ先輩を選んだか」
「選ぶも何も、わたしが入る前から続いてるんじゃないかな」
「そうなんだ。じゃあ、ルミナはあたしが入ったことに感謝しなきゃね」
「え、なんで?」
「だって、気まずいでしょ。ルミナだけ浮いちゃうじゃん。今だって気を使って離れてたんじゃないの?」
メイベルがファランたちの方を見やる。
「そういうつもりはなかったけど……」
「ま、ルミナにそのつもりがなくても、実際にああして二人が気兼ねなくイチャイチャできるのはあたしのお陰よ」
「それじゃあ、一応感謝しておくよ」
「それでよろしい」
会話が途切れ、しばらく無言で星空を眺めていたが、唐突にメイベルが言った。
「ルミナはどうしてトレジャーハンターに?」
「言ってなかったっけ」
「うん」
ルミナは顔を空へ向けたまま答えた。
「そんなにはっきりした理由は無いよ。うちも両親がトレジャーハンターだったんだけどさ、探索中に死んじゃったの。わたしが物心つく前だったから、悲しいとか辛いとかは思ったことないんだけど、爺ちゃんがトレジャーハンターにはなるなってずっと言い聞かせてきてさ。そのせいで逆に興味が出ちゃったんだよね」
「そりゃ、爺ちゃんミスったね」
「うん。何も言われてなかったら興味ないままだったと思う」
トレジャーハンターに興味を持たないまま過ごしていたら、ルミナはどうなっていただろうか。祖父の勧めるままに魔術学院へ入り、その後は?
あの日、トレジャーハンター募集の貼り紙の前を素通りしたならば、今の自分はどこへ向かっていたのだろう。
「わたし、今が一番わたしとして生きられてる気がする。トレジャーハンターになった理由は大したことじゃないけど、たぶんこれで正しいんだよ」
「あたしも同じかな」
メイベルが後ろに倒れて、草地に仰向けになる。
「ルミナは、金満ドムス男爵の冒険って話知ってる?」
「知らない。何それ」
「大金持ちの貴族が、金に物を言わせて冒険する話」
「……それ、面白いの?」
「微妙。でも、嫌いじゃない」
「なんで」
「ドムスは元々お金持ちだからさ、冒険を始めた理由がお金稼ぎじゃないんだよね。それがいい」
メイベルは星空に手をかざしながら続ける。
「ほとんどのトレジャーハンターって、目的はお金じゃん? だから、すっごい大当たりを引いたら、そこで引退しちゃうんだよね」
「まあ、そうかもね。危ないし」
「でもさ、目的がお金じゃなかったら、冒険は終わらない。それってすごいと思う」
メイベルは身を起こすと、ルミナの方を見て言う。
「あたし達も、トレジャーハンターになった理由はお金じゃない。だから、冒険はずっと続く。楽しそうでしょ」
「……楽しそう」
「もし、あたしたちが大金持ちになっても、一緒にトレジャーハンター続けようね」
「うん」
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