第38話 ルミナとメイベル(3)
頼れる先輩たちのアドバイスを受けながら、ルミナは時間をやりくりした。ただ、事前にファランたちに言われていたほど苦労はしなかった。
ルミナの魔術の腕は平均を大きく上回っており、試験のために練習時間を割く必要がほとんどなかったからだ。
魔術の腕を上げつつ、探索の腕も上げる。
トレジャーハンターが多く出入りする行きつけの店を紹介してもらったり、様々な魔術道具の扱いを知った。
時には探索で当たりを引いて、宴会を開いた。机に金貨を積み上げて分配の相談をするときは、柄にもなく熱くなった。
ルミナは順調にトレジャーハンターとしての道を歩み進めていた。
学生としてもトレジャーハンターとしても忙しく充実した日々を送ること一年。ルミナは三年生に、ファランとライラは最上級生の七年生になった。
そんなある日のことだ。トレジャーハンター研究会室を一人の少女が訪れた。
あの日にファランがそうしたように、その日はルミナが扉を開けた。
「いらっしゃ――」
「ここ! トレジャーハンター募集してるってホントっ?」
ルミナの言葉を遮って、少女は一枚のチラシを目の前に突き出してきた。ゴチャゴチャに誘い文句が書き加えられた、あのチラシだった。
「うん。そうだけど、あなたは――」
「未経験者歓迎ってのも?」
「う、うん。誰でも――」
「入る!」
ルミナの言葉をことごとく遮り、少女は部屋へ入ってくると、いきなり名乗った。
「あたし、メイベル。今日からよろしく!」
メイベルはルミナと同じ三年生だった。元々別の魔術学院に在籍していたが、今年から転入してきたとのことだった。
その日の夜、早速、枯れ木亭で歓迎会が開かれた。
「前は北本島に居たの。イルゼルって街の、イルゼル魔術学院ね」
それは北本島で一番大きな街の名前であり、同じく北本島で一番大きな魔術学院の名前だった。
「あたしの親、二人ともトレジャーハンターだったんだ」
「あ、わたしと一緒だ」
「そうなんだ! やっぱ、そういう人結構いるのかなあ」
「この学院には、ほとんどいないと思う。そもそもトレジャーハンター自体が稀かな」
「そうなんだ。じゃあ、ここ見つけられてよかったよ」
ルミナも同感だった。この一年で、トレジャーハンターという生き方は完全にルミナの人生の指針になっていた。
「北本島の遺跡は行ったことが無いから、色々聞きたいわ」
ライラが興味を示したが、メイベルは首を振って答えた。
「ごめんなさい、あたしも全然知らないの。実際に遺跡へ入ったことが無いからね。親が許してくれなくてさ。もうちょっと強くなってからにしろって。その代わりに魔物との戦い方とか、そういうのは色々習ってた」
「では、どうして南本島へ来たんだ?」
次はファランが質問した。
「あー……、親が死んじゃって。探索中にね。それで、こっちの親戚を頼ってきたの」
「すまん。予想できたことだ」
「いいのいいの。好きでトレジャーハンターなんて危険なことやってるんだから、死ぬのも自己責任でしょ」
メイベルはカラリとした性格の少女だった。
「それで転入早々にトレジャーハンター研究会を訪ねるとは、将来有望だな。これは、導いてやるのが年長者の役目」
「遺跡に入れなかった分、探索記や冒険譚はたくさん読んできたから! 未経験だけど、意気込みは十分! ってことで、みんなよろしくっ!」
自分で言うだけあって、やる気はすごかった。歓迎会の翌日から遺跡へ繰り出して、その腕前を披露してくれた。
メイベルの得物は重そうな大剣だった。見た目が強そうという理由で選んだらしい。火の精霊術が込められているので、燃やしながら振り回すとすこぶる派手だ。
専攻している魔術も自身の肉体強化を目的とした、己霊術という稀有な道を選んており、根っからの武闘派だった。
「うちの前衛は君で決まりだな」
「うちは魔術師ばっかりだから助かったわ」
初陣で巨大なヘビの頭を切り落としたメイベルを見て、ファランとライラが言った。
「すみませんでしたね、普通の魔術師で」
「拗ねないでね、ルミナ」
「そもそも、魔術学院で集まったんだから当然じゃないですか」
「ぐうの音も出ないな」
明るく豪快で実力もあるメイベルは、あっという間に仲間に馴染んだ。先輩たちからトレジャーハンターの基本も学び、ルミナたちは探索パーティーとして順調に成熟していった。
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