第37話 ルミナとメイベル(2)

 ルミナの両親はトレジャーハンターだったらしい。らしいというのは、ルミナは両親のことを何も覚えてないからだ。ルミナが物心つく前に二人とも遺跡探索中に死んだと聞かされていた。

 ルミナを育ててくれたのは母方の祖父だった。祖父は魔術師であり、昔は帝国本土で精霊術を教えていたことがあった。ルミナにも小さいうちから色々教えてくれた。しかし、トレジャーハンターのことだけは教えてくれなかった。

 ただ言われ続けたのはトレジャーハンターにはなるなということだけだ。


 ルミナは教養学校を出た後、祖父の勧めでアルドロカム魔術学院へ入った。そこから寮暮らしになったが、やはり祖父から離れると興味が出てきた。トレジャーハンターについて。禁止されていたから、その反動もあったかもしれない。


 周りにはトレジャーハンターに興味ある人はいなかった。アルドロカム魔術学院と言えばネレド大公領で一番の名門魔術学院だからだ。

 皆のトレジャーハンターに対するイメージは、落ちこぼれの無法者、荒くれ者、盗っ人、そんなところだ。そして、それは概ね間違っていなかった。

 魔術の専門家を目指す人の方が多かった。とにかく誰もが帝都で仕事に就きたがった。帝国軍の上級魔術師、帝国魔術学院の教員、研究者。大手の魔術道具ギルド。

 祖父がルミナをここに入れたのも、これが狙いだったのかもしれない。

 しかし、ある日。ルミナは学院の掲示板に貼られた仲間を募集するチラシを見つけた。


【トレジャーハンター研究会 トレジャーハンター募集! 未経験者歓迎! 初心者歓迎! 経験者も歓迎! ベテランでも歓迎! 興味ない人でも歓迎! とにかく誰でも歓迎! 見学だけでも可! 話を聞くだけでも! 何でもいいから誰か来て!】


 誘い文句がどんどん後から書き加えられてゴチャゴチャになったチラシだった。しかし、トレジャーハンターについて肯定的な物を、ルミナは入学してから初めて目にした。

 ルミナは早速、チラシに書かれてた場所へ向かってみた。


「チラシを見て来たの? ようこそ! さあ、入って入って」

 扉をノックしたら出てきた男子学生に、何も言うまもなく招かれた。

 狭い部屋で待っていたのは、その男を入れてもたった二人だけだった。

 男の名前はファラン。五年生で魔術道具製作が専門だった。

 もう一人は女で、名前はライラ。ファランと同じ五年生で、精霊術が専門だった。


 話を聞くと、二人は学業の合間にトレジャーハンターをしているらしかった。

 普段の休みに計画を練って準備を整え、夏季や冬季の長い休みを利用して遠征に出る。講義の計画次第で連休が取れそうなら、近場の遺跡に挑戦する。忙しい学業と並行したハードな探索だった。

「君は一年生だろう? 単位の取り方はアドバイスしよう。上手にやりくりすれば時間は作れるはずだ」

「は、はい。ですけど、まだ入るって決めたわけじゃ――」

「じゃあ、今から探索体験に行きましょう。こんな部屋に閉じこもってても、トレジャーハンターの良さは絶対分からないわ」

 ファランとライラ、二人揃って本当に押しの強い人たちだった。

 その日のうちに連れ出され、いきなり初心者向けの遺跡へ潜り込んだ。魔物とも戦った。二人の手厚いサポートの下であったが、それでもルミナは魔術の腕を褒められた。もの凄い才能だ。トレジャーハンターに向いている、と。

 もちろんお世辞だったのだろうが、正直なところ、ルミナは嬉しかった。それに楽しかった。何のために習わされてるのか分からなかった魔術が初めて実際に役に立って、ようやく本当の意味で自分の技になった気がしたのだ。

 こうしてルミナはトレジャーハンターとして、二人の仲間になった。

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