第27話 大水槽(2)
リフィトリアから高熱ランプを受け取り、慎重に気配を探りつつ奥の水槽を照らしてゆく。
さすがに全容は見えないが、すぐ近くに敵の姿は無いようだ。
互いに合図をし、ルミナが先に出る。
深い。底が見えない。上を見ると遠くに天井がある。ここに水面は無い。浮上可能な場所はもう少し先だ。元来た水槽と比べてかなりの大きさがある。
こうして開けた場所に出ると、狭い通路とは別の怖さがある。全方位どこから敵が来るかわからない。静かな水の闇、気を張っていなければ心がどうにかなりそうだ。
ルミナは紐を引いてリフィトリアに合図を送った。リフィトリアがゆっくりと追従してくる。ランプをリフィトリアに返し、再び進み始める。
しばらく進んた時、ルミナは魔物の気配を察知した。
すぐにリフィトリアへ伝えると、表情がさっと固くなる。ここは水中、逃げ場はない。
(二匹いる……!)
リフィトリアが照らす高熱ランプの光の中を影が横切る。一瞬見えたその姿はリチャラワニだ。もう一つの気配もよく似ている。恐らくリチャラワニだろう。
二匹はこちらの隙を伺うようにして、二人の周りをぐるぐると回遊している。
しばらく睨み合いのような状況が続いたが、敵がそれを破った。
一匹のリチャラワニがリフィトリア目掛けて挑みかかってきた。巨体からは想像もつかない、俊敏かつしなやかな泳ぎで迫ってくる。
ルミナが対応しようとしたが、リフィトリアの高熱ランプを近距離真正面から受けたリチャラワニは嫌そうに頭を振って方向転換した。熱と光が効いているようだ。
そのリチャラワニは諦め悪く、再び回り始めた。
次に襲いかかってきたのはもう一匹のリチャラワニ。今度の標的はルミナだった。先ほどの結果を見ての判断かもしれないが、敵の考えは甘い。ルミナは戦えるのだ。
意識を集中、精霊術を行使した。ここしばらく水中での魔術を練習してきた。その成果が試される。
顎を開けて迫るリチャラワニ、その周囲で急激な冷気が発生する。
瞬間。水が凍りつき、鋭い刃となって敵の頭部を貫いた。
即死した敵が勢いを失い、口を開けたまま沈んでゆく。成功だ。
残るは一匹。そう思った時、凄まじい怖気が全身を包んだ。
何かいる。別のものが。
リフィトリアは何も感付いていないようだ。今も襲ってくるリチャラワニを高熱ランプで退け続けている。だが、そのリチャラワニも突然動きを止めた。ルミナと同じように何かを感じたのか。
そして、それは現れた。
水底の闇、深淵から伸び上がってくる巨大な影。軟体の不気味な体は太く、ルミナが二十人分手を繋いで輪になったとしても囲いきれそうもない。長さは全く分からなかった。体の終端は底知れぬ水の奥深くまで続いていて、終わりが見えない。開かれた円形の口にはびっしりと牙が生えている。
(ワームだ、でかい……)
こんな化け物は見たことがない。どんな特徴を持つ魔物か知らないが、目を付けられたら確実に死ぬことだけは分かる。
ワームの巨体が高熱ランプの投射範囲に躍り出たのを見てルミナは我に返った。
リフィトリアへ目を向けると、絶望的な顔をして硬直している。手には高熱ランプを構えたままだ。
急ぎ横から手を出して、ランプの灯りを消した。ルミナが腰に付けた通常の魔術ランプの灯りだけとなり、周囲が一気に闇へ沈む。
薄明かりの中、巨大ワームが一口でリチャラワニを丸呑みにするのが見えた。ワームは不気味に蠕動し、そしてゆっくりと水底へと引っ込んでいった。
リフィトリアと顔を見合わせる。お互いに言葉を発することは出来ないが、一刻も早くここを離れたいということだけはしっかりと伝わった。
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