第21話 金ならある(2)
「舐め腐るのも大概にしろよ、小娘」
「舐めていません。真剣な交渉をしています」
空気がヒリつくような睨み合いが続いたが、引いたのはランドルだった。椅子に座り直し、再びリフィトリアの方へ向き直る。まだ話を聞く気はあるようだ。
「方法を知っているとは言え、あの奥に何度も潜るのは大変な危険を伴うでしょう。もしも目的が金銭であれば、この取引は決して悪いものではないはずです」
確かに悪い提案ではない。多くのトレジャーハンターにとって、遺跡探索は金銭を得る手段でしかないからだ。しかし、リフィトリアは相手のプライドを無視しすぎだ。初対面の小娘にいきなり金貨袋で殴られて良い気がする男はいないだろう。
案の定、ランドルは不機嫌そうに唸り黙ってしまった。
「ちょっといい?」
ルミナが手を挙げる。
「ランドルさん。もしかしたらたけど、あなた右脚に怪我してない?」
ランドルがルミナの方を向く。その目を見て確信した。これは交渉できる。
「上手に隠してるけど、歩き方がほんの少しおかしい。治りきらない大怪我があったんじゃない?」
「……だったら何だ」
「それで大水槽に潜れるの?」
ランドルは答えない。
「もしも見込みがないのなら、わたしたちの提案に乗ってほしい。絶対に悪い話じゃないから」
「てめえら分かってんのか? この遺跡には似たような水槽はクソほどある。あの水槽に潜る方法は他の道にも応用が効くだろうが。その全部をてめえらに譲ることになるんだぞ」
「その怪我で全部回れるの?」
ランドルは舌打ちして煙草を吸った。ルミナは話を続ける。
「無理に挑むのは危険すぎる。得られない収穫にこだわるよりも、安全確実に手に入る報酬を取るのは賢い選択だとわたしは思う」
ランドルは苛立ちを隠そうともせずに貧乏ゆすりをしていたが、ついに意を決したようだ。
「クソが」
煙草を灰皿に押し付け、言った。
「金五百だ。一枚もまからねえ」
「ありがとうございます」
リフィトリアが礼を言った。
「さすがに金貨五百枚は持ち歩いておりませんので、家に手紙を出して早急に送らせます。お話はそれが届いてから、お金と引き換えでよろしいでしょうか」
「マジで言ってんのか……? 金五百だぞ」
無茶を言っている自覚はあったらしい。自分で提示しておきながら驚くランドルに、リフィトリアは平然と答えた。
「はい。必ずお支払いします」
「てめえ何もんだ」
「申し遅れました。私はリフィトリア・ネレドと申します」
「ネレド……」
ランドルはそう呟き、力なく背もたれに寄りかかった。
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