第19話 理由(2)
リフィトリアは一通りの質問を終えると、話し始めた。
「このネレド大公領に暮らす人の多くは、大陸系帝国人もしくは大陸系帝国人とアルキャロ人の混血です。しかし、僅かに純粋なアルキャロ人の血を残した人々が暮らす場所が今も残っています。南本島の端の方にある地区で、アタカチャという小さな町です」
「名前くらいは聞いたことあるかも」
「私は一度だけそこを訪ねたことがあるのです。その時、出会った町の人たちにも同じような質問をしました。ですが……」
「何かあったの?」
「答えは、さっきのルミナさんとほとんど同じでした」
リフィトリアが手元の紙束に視線を落とした。
「私たち帝国のせいです。アルキャロの都市を破壊し尽くし、財産を奪い尽くし、土地を占領し、人々を殺し、文化を焼き尽くし、歴史を失わせました」
「確かに帝国のやったことだけど、二千年以上も前のことだよ」
「そうです。二千年以上も前に、私の先祖がやったことです。帝国北部軍陸戦魔術兵器部隊隊長、アルドロカム・ネレド」
その声には強い意志が感じられた。先祖というよりは自らを責めるような強い言葉。
「アルドロカムは当時最新鋭だった強力な死霊兵器を駆使してアルキャロに攻め込み、平和的な暮らしをしていた彼らを圧倒しました。そして、その戦果を讃えられ戦後にこの地を領地として与えられた。私の贅沢な生活の始まりはそこにあるのです」
リフィトリアは再び語気を弱めて続けた。
「だから、私は少しでもアルキャロの文化を拾い上げて返したいと思っています。これも――」
ボロボロの紙束を示しながら言う。
「その一つです」
「なるほどね」
納得できる理由を聞いてルミナは少しだけ安心した。ルミナには遺物に歴史的価値を見出すほどの知見は無いが、得体の知れない道楽ではないと分かっただけでもリフィトリアに親近感が湧いた。
「けど、それならお金で遺物を買い取ればいいんじゃない? 今朝は市場で買ったけどさ、もっと大々的に買い取りすればトレジャーハンターがわんさか拾って持ってくると思うよ」
「それもお父様に提案したことがあるのですが、お金は無尽蔵に湧き出てくるものではないと却下されてしまいました。それに、高値での買い取りを始めると偽物を作って持ち込む人も増えるだろうと。どうやら私の世間知らずが過ぎたようですね」
リフィトリアは自嘲気味に笑った。
「……確かにそうなるかも」
ならず者共の気質を考えれば納得である。
「それに、もちろん冒険に憧れているというのも嘘ではありません。冒険を楽しみつつ、遺物も回収する。どちらも達成できればいいと思っています。甘いでしょうか」
「いや、立派な理由だと思う」
そう答えながら、ルミナは考えた。だとすると、リフィトリアが冒険に満足するという時がいつになるのかまるで分からない。果たしてルミナの仕事はいつ完了するのだろうか。
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