第15話 ダスラの地下水路(2)
改めて遺跡の入り口に立つ。ルミナは開け放たれた扉を見据え、リフィトリアに言った。
「いきなり深くは潜らない。でも、こないだのアルドロカム砦みたいに安全な場所じゃないから、十分に気をつけて」
「はい」
「それじゃ、行こう」
建屋に入ってすぐ、地下への階段が目に入った。人が三人ほど横並びできる程度の幅がある。壁には一定間隔で魔術ランプが取り付けられており、明かりには困らない。
ルミナたちは並んで階段を下り始めた。冷えた空気の中に、二人分の足音が響く。
「ランプがついているのですね」
「浅いところは組合が整備してくれてる。ここ町中にあるだけあって来る人多いからさ」
ダスラの地下水路は町中にあるため人気の高い遺跡だ。そして町中にあるということで、整備もしやすい。管理組合が灯りの手入れや地図の更新をしてくれることで、かなりの事故が防止されているはずだ。
「そういえば、ルミナはこの遺跡が町中にある理由を知っていますか?」
「えっ? うーん……大きな遺跡があって、その周りにトレジャーハンターが集まってきてダスラの町ができたんじゃない?」
考えたこともなかったが、喋ってみて自分でも納得できる理由だった。しかし、リフィトリアから出てきた答えは違うものだった。
「ハズレです。先にダスラの町があって、この地下水路は町の開発中に見つかった遺跡です。もちろん、遺跡の発見がトレジャーハンターたちを呼び寄せて、ダスラを大きくしたという事実はありますけどね」
「そうだったんだ」
「地下に大きな食糧貯蔵庫を作ろうとして穴を掘っていたら遺跡の通路を掘り当てたのだそうですよ。発見がそんな経緯なので、この地下水路の本来の出入り口はここではないのです。さっきの建屋も、この階段も、発見後に整備されています」
「やたら詳しいね」
「座学は得意なんです。これまで冒険の欲求は本や資料を読み漁って満たすしかありませんでしたから。こうして実際に遺跡の中を歩くことをどれほど想像したか分かりません」
「実際に歩いてみてどう?」
「ちょっと肌寒いですね」
階段を下り終え、二人は通路に出た。
通路の幅はかなり広く、天井も高い。階段から見て左右に伸びる通路の果ては闇に飲まれて確認できない。
冷たい石に囲まれた、ひたすらに荒涼とした空間だ。階段と同じくランプが各所に配置されているものの、点在する小さな灯りは広さに対して頼りない。
リフィトリアは自前のランプを点灯し、腰にかけた。
耳を澄ませると、通路全体に小さな音が満ちているのがわかる。小気味よい囁きのようなホワイトノイズの正体は、通路の中心を走る水路の流れだ。
水路幅は通路幅の三割ほどありそうだ。小舟が余裕ですれ違えそうである。水面は暗く穏やか、灯りが足らず、底は視認できない。
「想像していたよりも大きいですね」
リフィトリアが水路に歩み寄り、しゃがんで水面へ顔を近づけようとするのをルミナが止めた。
「危ない。無闇に水面に近づかないほうがいい」
「そうなのですか?」
「水の魔物がいる。特に暗がりにいると分かりにくいからね」
リフィトリアは頷き、立ち上がって水路から離れた。
「引きずり込まれる事故は結構多いんだ。水中ではまともに抵抗できないから、魔物の種類によってはかなり惨いことになる。死体が回収できればいい方」
リフィトリアの顔がこわばる。
「なるべく水に近寄らない。近寄る場面では十分注意する。いい?」
「はい」
「じゃあ進もう」
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