第9話 遺跡探索(2)
管理組合の担当者はリフィトリアの汚れた服を見て目を剥き、神妙な面持ちで謝罪を述べるリフィトリアに、どう対応すべきか困惑していた。難儀なことだ。
管理組合の事務所を出てもリフィトリアは浮かない顔をしていた。
このままトレジャーハンターとしての意欲を失って、ここで依頼完遂にならないだろうかとルミナは思った。しかし、同時にそうなってほしくないとも思った。それはリフィトリアをメイベルと重ねて見てしまっているからだろう。
いつも前向きで新しいことへの興味に満ちあふれていたメイベルの姿は、今朝のリフィトリアとよく似ていた。こうして沈んでいるのを見ると、少しだけ辛くなった。
「魔物との戦いで遺跡が壊れるなんて日常茶飯事だから、そんな気にしなくても」
「ですが、アルドロカム砦は管理の行き届いた特別な場所です。未知の危険が溢れる他の遺跡とは事情が違って、公共の施設と言ったほうが近いでしょう。それを不注意であんなに酷く壊してしまうなんて」
確かに、アルドロカム砦であんな破壊が起きた話は聞いたことがない。そもそも、あの場所は初心者が練習のために行く場所だ。壁をぶち抜くほどの技が放たれる事自体、皆無と言っていい。
「……多分、お父様が後の処理をしてくれるのでしょうね」
「じゃあ、大丈夫でしょ」
「情けないです」
そう言ってリフィトリアはうつむき、ため息をついた。
ルミナはその姿に何故か苛立ちを覚え、口を開いた。
「トレジャーハンターには、ごろつきや盗っ人上がりのような奴らが多い。それどころか、現役のトレジャーハンターでも、収獲が乏しくなったら盗みや恐喝で食いつなぐような恥知らずもいる。お宝で一攫千金を目指そうってやつは大体そんなもん。情けなさで言えば、そういう連中のほうが遥かに酷い。情けない……なんて落ち込めるだけ、リーフは立派だと思ったほうがいいよ」
隣でリフィトリアが顔を上げる。
「どうする? トレジャーハンター諦める? 別にお金に困ってるわけでもないんでしょ。わざわざ辛い遊びを続ける理由ないじゃん。わたしはそれで完了報酬貰えるし、早く仕事が終わるなら助かるね」
あえて突き放すように言った。するとリフィトリアの顔に少しずつ気力が戻っていった。
「いいえ、やめません。遊びじゃないので」
「そう」
「今日はありがとうございました。しばらく練習して、武器の扱いに慣れようと思います。もう同じ失敗はしません」
良い切り替えだった。表情に陰りはない。
「またお願いします。今度はもっと上手にやりますので」
「わたしも仕事はきっちりやるから、それは安心して」
「はい。それでは、また連絡します!」
リフィトリアは門まで走り、こちらを振り返って手を振ってきた。ルミナが手を振り返すと、リフィトリアは笑顔を見せて城へと帰っていった。
どうしてこんなお節介をしたのだろうと、ルミナは自分が不思議に思った。メイベルと重ねて見てしまったからだろうか。
後ろ姿が見えなくなって手を下ろした時、ルミナは自分が笑っていることに気づいた。
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