第10話 高級ホテル(1)

 また連絡するという言葉があったので、それを信じて待ちつつ、ルミナ自身も半引退期間のブランクを埋めるべく行動した。

 魔術の行使は意志が要だ。整えられた心が強くて正確な力を生み出す。練習に取り組んでいるはずのリフィトリアに応えるべく、ルミナも真剣に練習をし直した。

 それでも、ふとした瞬間我に返ることがあった。どうせ金持ちの道楽が相手なのに、何を真面目にやっているのだろうと。その度に「遊びじゃないので」というリフィトリアの言葉が蘇ってきて、ルミナに練習の手を続けさせた。


 一週間ほど経った頃の昼過ぎ、家に来客があった。ノックに応じて扉を開けると、そこにいたのはリフィトリアだった。

「こんにちは!」

「リーフ! どうしたの、こんなとこまで」

「手紙か遣いを出そうか迷ったのですが、やっぱり仲間なら直接会いに行くべきだと思いまして」

「一人で?」

「はい、一人です」

 付き人の姿は見られない。どうやら本当らしい。

「とりあえず入って」

 散らかった部屋を見せるのを恥ずかしく感じたのは先輩トレジャーハンターとしての意識が出てきたからだろうか。

 ルミナはリフィトリアに席を勧めて、精一杯の茶を出した。

「私、強くなりましたよ」

 開口一番、リフィトリアはそう言った。自信に満ちあふれた笑顔。すぐにでも腕前を披露したいという、少々前のめりな姿勢が伝わってくる。それだけの練習はしたということだろう。

「買った弾の特徴と使い方は一通り覚えました。元々射撃には自信があるので、あとは焦らないことだけです。もう前みたいな失敗はしません」

「それは期待大だね」

「ですから、次の遺跡に連れて行ってくださいな」

「それは――」

 気が早いと言いそうになったが、ルミナ自身も実際に遺跡に潜ることで実力を磨いてきた。練習台のアルドロカム砦には一度行っただけで、以後は仲間の先輩トレジャーハンターに連れられて少しずつ上位の遺跡へ行った。

 当時は乱暴な方法だと思ったものの、同時に次の遺跡への期待感も大きかった。結局、現地での立ち回りを覚えるには現地へ行かなければならないのだ。今となっては、先人の教育を馬鹿には出来ない。

 それに、練習ばかりしていてもリフィトリアは満足しないだろう。それはつまり仕事が完遂しないということを意味する。

「まあ……実際に行ってみたほうがいいか」

「やった! 次はどこへ行けますか?」

「ダスラの地下水路に行きたいって言ってたね。あそこの浅いところから行ってみよう」

「ダスラですね。では早速支度を始めましょう!」

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