第7話 金持ちの買い物(2)

「後は、服はどうでしょうか。一応、動きやすい服を選んできたのですけれど」

「うーん……そのままはちょっと」

 リフィトリアは優雅なクリーム色のブラウスと紺のロングスカートを身につけていた。ルミナは貴族の装いに詳しくないが、パーティーにでも着て行けそうな服装に見える。靴は歩きやすい物を選んできたようだが、ハイキングならともかく、遺跡に潜るような物ではないだろう。

「どんな服が良いのでしょう。ルミナの服装も普通の町歩きの服装とあまり変わらないように見えますが」

「衝撃をやわらげたり燃えにくかったり、そんな感じの防御魔術がかかってる。普段使いもできて楽だからこれにしてるけど」

 ごつい防具を取り付けたトレジャーハンターもいるが、それでは動きにくいので少々値は張ったが防御用の魔術のかけられた服を買ったのだ。普段使いもできて着替える手間も無いので値段分の活用は出来ているだろう。

「なるほど。そういう物もあるのですね」

「リーフも同じようなのを買った方がいいと思う。さすがにそのままは危ないかも」

「では西通りのお店を見に行っても良いですか? 服はいつもそちらの店で買っていますから、相談してみようかと」


 リフィトリアの提案で、西通りの店へ向かった。ルミナは普段利用しない高級品店通りだ。リフィトリアは迷うこと無く一つの店舗へ入っていったので、ルミナもそれに続いた。

 すぐに店員が寄ってきてリフィトリアにお辞儀をした。ほんの一瞬だが、ルミナの方へ向けて侮蔑の視線が向けられたのが分かった。

「いらっしゃいませ、リフィトリア様。本日は何をお探しでしょうか?」

 さすがは大公令嬢御用達だ。個人対応とは恐れ入る。

「防御用の魔術がかけられた服を探しています。遺跡探索に向いた物が必要なのですが」

「遺跡探索……でございますか」

 店員は僅かに困惑した様子を見せたが、すぐに切り替えて案内を始めた。深く理由を聞かず要求に徹する態度はさすがだなとルミナは思った。

 店員とリフィトリアに続いて店の奥にある特別室らしき場所へと進んでゆく。しかし、扉の前でルミナだけが無言で止められた。

「そちらの方は私の仲間です。通してくださいますか?」

 店員はリフィトリアの方を振り向いて驚愕の表情を浮かべ、渋々といった感じで退いた。ルミナも無理を押してまで入りたいわけではないが、リフィトリアの要求なので仕方が無い。居心地の悪さを感じながら奥の部屋へと入った。

「魔術付与された品はこちらになります」

 並べられた品物の数々。少し見ただけでは探索用とは思えないような衣服ばかりだ。どれも上品な代物で、危険な遺跡に潜り込むトレジャーハンターの服には見えない。

「高い耐火と耐衝撃性能、さらに毒の浸透を遅らせ、寒さにも強く、撥水性があります。それでいて、外見の美麗さを損なわぬように作られています」

「では一番安全性の高い物を見繕ってもらえるかしら」

「かしこまりました」

 店員たちがテキパキと動き回り、リフィトリアの元へ様々な衣類を持ってくる。そしてルミナが呆然としている間に全てが済んだ。

 新しい服に身を包んだリフィトリアがルミナのところへやってくる。相変わらず遺跡に突入するような格好には見えないが、パーティーに出られそうだった前の服よりは良くなった。

「それで、いくらしたの?」

「金貨二十七枚ですね」

「はぁ……。まあ、いいや。じゃあ実際に遺跡へ行ってみようか」


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