文化祭
「すみません、遅れました!」
透華達と別れてから数分後、私は会議室も扉を勢いよく開けた。だが、勢いよく開けたせいか、会議室にいた全員が一斉にこちらに目を向けた。その中には、小声で何かを話している人や驚いた顔でこちらを見つめる人がいた。
「朝寝さん、2分近くです。早く席に着いてください。」
「はい…。すみません。」
私は今の状況が恥ずかしすぎて、顔を俯かせたまま先生に指定された席に着いた。笑う人こそいなかったが、前に立っている秋溶は、笑うのを耐えているのか、少し肩を震わせているのが見えた。とにかく、遅刻してしまったことは変えられない事実だ。今は委員会に集中しよう。
「全員いますね。それでは、10月に開催される文化祭について話し合いたいと思います。」
先生が全員いることを確認し、文化祭についての話が始まった。
私たちが通う高校では、10月に文化祭がある。だが、今は6月。この高校では、夏休みに準備する部活や委員会がある関係で、夏休みよりも前に話し合いをする流れが決められているらしい。例年通りであれば、文化祭は3日間あり、1日目に学校の生徒のみで、2日目で親族のみ、3日目で外から来る人を対象とした、大掛かりな文化祭になる。去年の文化祭では、3日目の夜には、花火が上がるなど、文化祭には、地域の人が力を貸してくれる。その為、私たちの通う高校の文化祭は、他の学校よりも盛り上がり、お客さんも多い。まるでお祭りのような感じだ。
「今年の文化祭についてですが、去年と変わりはありません。日時は10月の15、16、17日になります。15日は生徒のみですので、間違えないようにお願いします。」
先生が話したことを持ってきていた紙にメモする。やはり、例年通りの文化祭になるようだ。
「16、17日なのですが、この2日間は、外からの来客者が来ます。いくら家族とはいえ、何があるかは分かりません。先生である私たちだけでも、この広い敷地を見回るのは難しいです。」
確かにこの学校は、近くに別の高校もないため、広く作られている。3年前に花火を打ち上げる場所を確保するために、学校に隣接してあった林を購入したらしく、他の学校よりも断然広い。私立高校だからだろうか。
「ですので、皆さんにはそれぞれ分担して学校内を中心に見回りをお願いしたいです。」
会議室内がざわつき始めた。それもそうだ。せっかくの文化祭に見回りはしたくないだろう。だが、先生の言っていることも理解できる。
「みなさん静かに。私たちだけでは手が回らないんです。そこを理解してくださると助かります。」
先生の話を聞いて、先ほどのざわつきがなくなった。きっと先生の熱意が伝わったのだろう。先生も大変だな。
みんなが静かになり、真剣な眼差しになったことがわかったのか、先生は話し始めた。
「…では、1年生は校舎内、2年生は校庭側、3年生はお祭り広場をよろしくお願いします。時間帯は、1組の人は9時から12時、2組の人は13時から16時、3組の人は16時から19時までお願いします。それぞれ担当の場所には、1人先生を配置させます。それぞれ先生の指示に従って行動してください。それでは、学年で分かれて担当の先生を中心に、話し合いを始めてください。15分後に話し合いを終わらせてください。」
そう先生が言ってすぐ、それぞれが話し合いを始めた。これについては生徒会も実行委員会も区別はなく、一緒に行うらしい。私たちは軽く自己紹介を済ませ、担当の先生から注意事項や集合場所を伝えられた。
数分後_
「それでは皆さんお疲れ様でした。今日の会議はこれで終了です。みなさん、これから協力して文化祭を盛り上げていきましょう。それでは、解散。」
そう先生が言うと、みんなぞろぞろと会議室を出て行った。私の次の予定は部活だ。秋溶はどこにいるんだろう。
「あっ、いた。秋溶っお疲れ様。」
「お疲れ。どうしたの?」
「この後部活でしょ。秋溶と一緒に行きたいなぁーって思って。」
「うんいいよ。ちょうど片付け終わったし、一緒に行こうか。」
「やったー!ねっ、早く行こっ!」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ。」
そう話している時、秋溶は、あまり話してほしくないことを私に話し始めた。
「ねぇ春、気になってたんだけど、なんで会議に遅れたの?なんかあった?」
そう言われ、私は顔が熱くなった気がした。秋溶に痛いところをつかれ、ほんとに恥ずかしい。
「えっと、透華たちに遅れることを伝えてたら、時間過ぎてました…。ってか、秋溶笑ってたよね!?」
「あはは、ごめんごめん。そんな怒らないで。あんなに勢いよく扉を開けて、ふはっあはは。」
秋溶はその光景を思い出したのか、また笑い出した。俗に言う"思い出し笑い"というやつだ。人の失敗を笑うとは、ひどい、ひどすぎる。
「もう笑わないでよ。恥ずかしかったんだから!この話はなしなし!!早く部活行くよ!」
「ふふっ、はいはい。」
そう言い、私は秋溶の手を引きながら部室へと向かった。
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