始まり
「ふぁ〜ぁ、まじ眠い…」
どうしてこんなに朝が早いのか理解ができない。もう少し寝かせて欲しいと思いながら、学校へ向かう。
「全く、春菜、お願いだから授業中にだけは寝ないでよね!テストも近いんだし、あとになって、『ノート見せてー』とか『ワーク写させてー』とか嫌だからね!」
透華は相変わらず何か言っている。眠くて薄目を開けて歩くのがやっとな私には、何も入ってこない。私はいつものように会話を続けた。
「まぁまぁそう言わずにー。今日は寝ないから大丈夫だよー。」
「今までその言葉にどれだけ騙されてきたか‥。」
「ごめんてー。まぁでも、昨日6限で寝ちゃったからなー。ねぇ透華ぁ、またノート見せてくれなーい?」
そう、私は昨日の六限で寝たのだ。人間はどうしても抗えない欲がでてくると、それに従ってしまう生き物なのだよ。
「ほらーーー!もうこれだよ!!あんだけ寝るなっていったのに!!」
やっぱり怒った。
「ほんとごめん!!これで最後にするから!」
「それでノートを貸すとでも?」
あっ、やっぱそうですよね。透華からは、明らかに友達には向けてはいけないような殺意を感じた。仕方がない、あの手を使うか。
「ひっ、じゃっ、じゃあ今度なんか奢る!ぜっっったいに奢るから、ノート見せてください、お願いします!!」
必殺!道端で全力土下座!!
これでどうだ!
「はぁ、しょうがないなぁ。……はい、これで最後だよ。次はないからね?」
「はい、分かりました、透華様!ありがとう、マジで神!!」
「やめて引っ付かないで恥ずかしい。」
「そんなこと言ってぇ〜」
そんないつもと変わらない会話をしながら歩いていると、前の曲がり角から見覚えのある人が見えた。
「…あっ、あれって秋溶と冬樹じゃない?」
「えっどこ?」
「ほらほらあれ、あそこにいるの。…おーい!!秋溶ー!冬樹ー!おはよー!!」
そう叫びながら、私は幼馴染でもある秋溶に思いっきり抱きついた。そんなことをしても、秋溶は優しく受け止めてくれた。私の自慢の彼氏だ。
「おはよう、春。朝から元気だね。」
「えへへ。秋溶あったかーい。」
「えっ!そっ、そぉ?」
「うん!」
私がそう言うと、秋溶は少し顔を赤くしていた。寒いのかな?私が全力で温めてあげよう。
「えっ何?俺今何見せられてる?」
「はぁ、この子達のバカップルぶりは宇宙一らしいから、仕方がないわよ。」
「そういうものなのか?」
「えぇ、そういうものなのよ。多分ね。本人たちは気にしてないみたいだけど。」
「そっ、そうか…。」
「そろそろ行きましょう。授業に遅れてしまうわ。」
「えっ、こいつらどうすんの?」
「放っておけばいいわ。そのうち走ってくるから。」
なんだろう。なんか後ろの方で私と秋溶の話をしているような気がするけど、あとで2人に聞いてみよう。
あっ、あそこのコンビニって確か…。
「ねぇ2人とも!ここのコンビニ限定のお菓子買おう。わたしずっときになってたんだよねぇー。」
「さっきお店の中で見つけてさ。みんなの分あるから同じものを買いたいんだけど、どうかな?」
そう、このコンビニは個人経営しているところらしく、そこには近所では有名な数量限定のお菓子があるのだ。朝から行列ができることもあり、今まで一度もたどり着いたことがない。秋溶が『コンビニの中にある』と言っていたので、もしかしたらまだ残っている、という希望にかけて、後ろにいる透華と冬樹に聞いてみた。
「あはっ、遠慮しておくわ。私たちはもう行きます。ほら冬樹、このお馬鹿さんたちは無視して行きますよ。」
「お、おう、じゃあな。」
そう言い残して、2人は足早に学校の方に向かって歩いて行った。仕方がない、限定のお菓子は諦めるか。
「先に行くなんてひどい。私はみんなでお菓子食べたかったのに。」
「あはは、仕方がないよ。限定のお菓子はまた今度にしよう。ねっ、春?」
「うん…。」
「ふふっ、春はえらいね。ほら、もう行こう。2人に置いていかれちゃうよ。」
そう言われて前を見た時、先に歩いていた2人の姿が豆粒に見えるほど遠くにいた。仕方がない限定のお菓子は諦めるとしよう。今は急がなければいけない。
「えっ、もうあんなところにいるの!?まってーーふたりともーーー!!」
そう叫びながら、私は秋溶と手を繋いで遠くで歩いている2人に追いつくように走った。
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