第55話 大人の女性とのお付き合い
彼女の魅力が本物だと示したかった。俺はちゃんと女性としての魅力を感じていると教えたかった。
そんな理由から、勢いで告白してしまった。断られるのを覚悟の上で、結婚を前提に交際を申し出た。その回答は意外にもオッケーだった。
そもそも
全く相手にされていないと思っていたけど、そんな事は無かったらしい。ともあれこうして俺は、15歳年上の彼女が出来たわけだが。
「普通逆じゃないですか?」
「え〜別に良くない? そんなの気にしなくて」
「いやまあ、そうなんですけど」
俺は今篠原さんの自宅で、リビングのソファに座っている。彼女に膝枕をしながら。これって普通は男女逆なんじゃないのか?
俺が膝枕をする側で良いのか? 男女平等が叫ばれる昨今の事情を考えれば、性別と行動を結び付けるのは良くないのかも知れない。
しかしやっぱり、疑問を感じずにはいられない。歳の差カップルのイメージ的には、年下が甘えるのではないのか?
そりゃあ甘えるぞと宣言はされていたけれども。だからそこに不満はないが、どうにも不思議なシチュエーションだ。
「むふふ〜
「え、そうですか? 自分じゃ分からないですけど」
「ボクは好きだよ、この匂い」
そりゃこっちのセリフだと言いたい。これまでに何度、貴女のフェロモン的な何かに狂わされて来たか。
今となってはアルコールとタバコの匂いに混じったそれを、正確に感じる事が出来ている。
だから当然こんな体勢で居れば、嫌でも意識させられる訳だ。対して篠原さんはそんな様子はない。何とも不公平な気がしなくもない。
俺だけがドキドキさせられているみたいで。これが人生経験の差だと言われたらそれまでなんだけど。
汗臭いとか思われるよりは全然良いけれど、何かこう……それらしい反応とかしてくれないのかなぁ。
「ほらほら〜疲れたボクを甘やかすんだよ〜撫でて撫でて」
「こ、こう、ですか?」
「うんうん、そんな感じ〜」
篠原さんが俺の手を掴んで自身の頭へと誘導する。言われるがままに頭を撫でてみたら、彼女は満足そうに笑った。
何だよ、この物凄く可愛い生き物は。許されるのか、年上の女性がこんなにも可愛いくて。
美人でスタイルが良くて可愛い。最強の生物だろこんなの、抗えるわけがない。ただでさえ篠原さんに夢中だというのに、更に深みへと引き摺り込まれる。
恋人という関係になったからこそ、見せてくれている彼女の姿。付き合うと篠原さんはこうなるのかと、知れたのは良いが余計にキツイ。
これまで一度も恋人が出来た事が無かった、思春期の男子高校生にとってこれは強力な猛毒だ。
「どうかしたの?」
「篠原さんが可愛い過ぎて辛いです」
「そんなのボクだって同じだからね?」
そう言うと篠原さんは、俺の手を絡め取り所謂恋人繋ぎの形を取る。以前プールでした様な、ただ繋いだだけとは違う。
痛くはない程度に、きつく握られていた。そこに込められた意思、それが俺には良く分からない。
だけど熱意の様なものは何となく感じる。ただ手を繋いだだけではなく、俺という存在そのものを絡め取る様な艶めかしさがあった。
ちょっとした触れ合いに過ぎないのに、掌から強く篠原さんの存在を感じさせられる。
「ボクだって人間だからね。その手の欲求ぐらいはあるんだよ?」
「そう……なんですね」
「それにね、気持ちを確かめ合う行為だと思っているんだ。そういう行為って」
単なる童貞に過ぎない俺にはまだ分からない世界だ。そもそもキスすらした事がない。その先にある行為なんて、もう全然理解できない。
知識としての何をどうするかは知っている。憧れみたいなものもある。だけどまだまだ未経験者としての勝手な想像しか出来ない。
実際どうなのかとか、何を思うのかとか。まさに大人の世界であり、そういう物なのかと思うほか無い。篠原さんみたいな美女が言うのなら、多分そうなんだろう。
「……まあでも、何も無しじゃ辛いよね。男の子だもんね」
「えっと……篠原さん?」
「こういうのは、たまにだけだよ?」
そう言って起き上がった篠原さんは、俺の頭を掴むと一気に顔を近付けて来た。呆気に取られている間に、篠原さんと俺の距離はゼロになっていた。
鼻腔をくすぐる良い香りと共に、唇に感じる柔らかい感触。重なった唇を甘噛みするかの様に、篠原さんは軽く吸い付いていた。
あまりの出来事に俺の脳内は真っ白になっていた。何も考えられず、ただ篠原さんにされるがまま。
数秒だったのか数分だったのか、それとも10分ぐらいそうしていたのか。俺には何も分からなかった。
ただ篠原さんの女性としての柔らかさとか、強烈な色気に全ての意識を奪われていた。
「ボクだって、我慢はしているんだからね?」
「は……はい」
「これより先は、咲人が成人してからね」
篠原さんは呆然としている俺を優しく抱き締めると、再び飼い主に甘える猫の様に膝枕の体勢に戻った。
本当はこの時、篠原さんも結構照れていたとか俺に気付く余裕など無かった。人生で初めて彼女が出来て、しかもキスまでもう経験してしまった。
色々と展開早過ぎるだろとか、色々な事が頭の中で暴れ回る。だけど何よりも、第一に考えねばならない事がある。
俺はこれから2年半ほど、この色気に耐え続けねばならないという事だ。俺にとって最高に幸せな日々の訪れと共に、とんでもない精神修行が同時に始まった。
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