第48話 クラスで人気の女子
悩める男子高校生をしながらも、俺はバイトも部活も続けている。そしてもうすぐ全国駅伝大会の本戦が開催される。
その日まであと1週間を切っていた。その日に向けて、俺は基礎体力向上を始めとしたトレーニングを続けて来た。
そして4kmのタイムを縮める努力も忘れていない。体力作りとしての10kmの走り込みとは別に、4kmを日々走っている。
特に夏休みに入ってからはその頻度を上げている。
2kmと4kmを走りたい場合、2kmは1kmのコースを2周し4kmは3kmと1kmをそれぞれ1周ずつ走る。
別に1kmを4周しても変わらないが、単調になるので俺はあまり好きではない。長距離走の魅力として風景の変化があると俺は思っている。
「
「
「ちょっとだけね」
最近接点が増えている彼女とは、結構仲良くなれたと思う。クラスでトップレベルの人気を誇る美人と、こうして会話出来る幸運には感謝したい。
ただ澤井さん以上の高嶺の花に恋をしている俺が、今更そんな事を考えるのもどうなんだという話ではある。
とは言えそれはそれ、これはこれ。こんな美人に話しかけられるのが、光栄だというのは変わらぬ事実である。
それと同時に、こうして地道に走り込んでいる所を見られたのは少し恥ずかしい。
「東君さ、最近雰囲気変わったよね」
「え? どの辺が?」
「少し大人っぽくなったかな」
真夏の日差しを浴びながら、校門の前で澤井さんと2人きりでいる。夏休みに入ったのもあり、タイミング次第では校門の近くに誰も居ない事は多々ある。
その状況下で、こんな風に言われると少し照れくさい。澤井さんの様な女子から有り難い評価を頂いたわけだが、悲しいかな一番そう思って欲しい人には届いてないんだよな。
喜ばしい事だけど素直には喜べない。
「自分では分からないけど、ありがとう」
「ふふ、やっぱり」
「やっぱりって?」
「私に褒められたぐらいじゃ、そんなに喜ばないんだね」
いやそんな事は……ない筈なんだけどな。確かに嬉しかったし、ありがとうというのは素直な気持ちだ。
それは偽りでも社交辞令でもない。だがどうやら、澤井さんの想定には届いていなかったらしい。
もうちょいテンション高めに答えた方が良かったのか? いやしかし2人だけのこの距離で、デカい声で喜ぶのも変だと思ったのだが。
そもそも俺はそういうタイプの人間ではない。
「いや別に嬉しくないわけじゃ」
「あのお姉さんに同じ事を言われたら、もっと喜ぶんじゃない?」
「そ、それは……」
「ジムで見てすぐ分かったよ。東君はあの人が好きなんだなって」
だとしたら、篠原さんにバレていないか不安なのだが。分かっていてスルーしてくれているならまだしも、不快に思われていたら最悪だ。
ただそんな対応はされていないので、トレーナーの
「幼馴染にも言われたんだよな。俺って、そんなに露骨なの?」
「ん〜〜露骨ではないけど」
「なんだ、違うのか」
「東君を良く見ている人なら、まあ分かるんじゃない?」
何だ、別にガッツリ表情や態度に出ているわけじゃないのか。それなら良かったよ、鋼の意思で耐えて来ていたのは無駄では無かったらしい。
篠原さんは結構無防備な所があるから、対応するのが大変なんだよな。その労力が報われたと思えばまだ…………ん?
俺を良く見ていたらってどう言う意味だ? 今の所気づかれたのは夏歩と澤井さんだけっぽいけど2人に共通点なんて………………え?
待て待て嘘だろう? そんな事があり得るのか? だって、どうして? 何が理由でそうなるんだ?
「やっぱり気づいて無かったんだね」
「え? 待ってくれ、それって……」
「東君は誠実そうだから、ちょっと良いなと思ってたんだけどな〜」
「…………まじ?」
オイオイ本当か? 澤井さんみたいなクラスのマドンナ的存在が? 俺を? 冗談だよな?
そんな風に見て貰える機会ってあったか? 全然記憶に無いんだけど。せいぜい失礼が無い様にと気を付けていたぐらいだ。
それが何故そんな高評価に繋がるんだ? 分からん、ガチで分からん。夏歩の場合は、まだ幼馴染としての長い付き合いがあった。
だけど澤井さんとは、知り合ってまだ3ヶ月ぐらいしか経ってないんだぞ。特別な何かがあった訳でも無いし。
「まあそうだよね、東君は誰にでも優しいからね」
「え、いや、そんな事は」
「流石に私もあんな美人に勝てる自信はないからね。そろそろ引かせて貰います」
分かんねぇ、やっぱり分からねぇよ女子って存在が。何処で何があってそうなったのだろうか?
いやもちろん嬉しいけどさ、何が切っ掛けだったのか皆目見当がつかないんだよ。誰にでもっていう程に、俺は皆に優しいか?
別にそんな事はないと思うんだけど。むしろ女心が分かってなさ過ぎて、無意識に迷惑を掛けてないか不安なぐらいだぞ。
もう何が何やら分からない。本当にもう、俺の人生はどうなっている? 隕石が落ちて来て俺に直撃する未来でも待っているのか?
これはその分の神様からのお詫びか何かなのか? 夏歩とか澤井さんみたいな女子に高く評価されているのは。
「駅伝もだけどさ、そっちも頑張れ、男の子!」
「あ、あぁ……」
それだけ言うと澤井さんはグラウンドへと戻って行った。本当にもう、何が起きているんだろうか。母さん、もしかして俺って……もうすぐ死ぬのか?
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