第37話 スポーツジムの無料体験
いよいよやって来ました『シルバージム』。ここは日本全国に展開している超有名なジムだ。
駅や電車内で広告を良く見るし、CMなんかも良く目にする。そんな所に今から入るというか挑むというか。
いざその実力を確かめさせて貰うわけだ。チャンピオンに挑む挑戦者になった気分でその門を叩く。まあ自動ドアなんだけどさ。
「そんな緊張しなくてもさ〜」
「いや、だって……」
「ムキムキのマッチョに囲まれたりしないから」
半端者はお断りだって空気を感じているんだよ。例えばベンチプレスで、「お前はその程度なのか」みたいな視線が飛んで来たりするんじゃないかと。
マラソンで良く知らない選手と競り合っている時、みたいな感じと言えば良いのだろうか。
もしくはサウナを出ようとしたら、「あ、もう出るんだ?」みたいな空気を感じた時とか。
そう言った探り合いみたいな、ジム独特の空気もあるのかなと。勝手に思っているだけなんだけど。
「あれ? 篠原さん、その子は? 弟さん?」
「どうも〜。この子はちょっとした知り合いだよ」
「初めまして、
「あぁ! 君が体験の子か! 私は
綺麗な茶髪を短めに切り揃えた大人の女性が現れた。見た目的には篠原さんと変わらない年齢に見える。
とは言ってもその篠原さんがそもそも、20代で通用する見た目だから参考にして良いものか。
まあそれはさておき、山崎さんは恐らく20代半ばぐらいのスポーティな女性だ。シルバージムのTシャツを着ているので、初見でジムの関係者とすぐ分かった。
とりあえずの印象だけで言えば、
「この咲人君、駅伝で区間2位取るぐらい優秀だよ」
「へぇ! 凄いじゃない君!」
「い、いや、そんな大した事は」
大人の綺麗な女性達に褒められるのはちょっと照れ臭いな。あんまり自覚は無かったけど、俺は年上が好みなのだろうか?
最近そんな風に感じる時がある。もし自分が付き合うなら、澤井さんと篠原さんなら篠原さんか? みたいな事を思う。
ただそれは何だか財産目当てみたいだし、ヒモっぽい気もしてどうかとも思ってしまう。まあそもそも選ぶ権利なんて俺にはないんだけどさ。
結婚は興味あるけど、先ず恋愛が上手くいく気がしないわけで。そんな奴が付き合うならどっちとか、考える事自体が烏滸がましいのだから。
何よりそんな事は今考える事ではない。お前はジムに何をしに来たんだと。
「じゃあ咲人君は山崎さんに任せるよ」
「任せて下さい!」
「宜しくお願いします」
篠原さんは俺の事を簡単に紹介すると女子更衣室へと消えていった。本日の無料体験はこの山崎さんが担当してくれるらしい。
先ずはトレーニングより先に、更衣室の近くにある休憩スペースで簡単な説明を受ける。
利用規約の中でも特に大事な部分や料金プラン、トレーナーとのやり取りについてなど。俺が思っていたよりも結構本格的だった。
単にダイエットがしたいだけの人から、スポーツ選手まで目的に合わせて色々としてくれるみたいだ。
俺の場合はマラソンランナー向けの対応に決まった。その内容は足腰に重点を置くのかと思いきや、全身を満遍なく鍛える方針だ。
「上半身って、そんなに必要ですか?」
「体幹や筋力のバランスって、ランナーには結構大事なんだよ」
「なるほど」
そこまで深く考えて来なかったけど、走るからと下半身ばかりを鍛えるだけでは駄目らしい。
バットを振ったりラケットを持ったりもしないから、わりと上半身は適当だった。綺麗なフォームを意識したり、貧弱と思われたりしない様には気にしていたけど。
そんな話を聞けただけでもプラスになったなと思う。無料体験でこれなら、お金を払う価値が出て来るぞ。
本格的な指導を受けられるのであれば、それだけで大きなメリットだ。そんな様々な説明の後に、動きやすい格好に着替えてからトレーニングに入る。
実際にトレーニング機器を使いながら、色々と山崎さんは教えてくれた。
「うん、しっかり基礎が出来ているね」
「本当ですか?」
「体幹をもう少し調整したら、タイムも伸びると思う」
それは非常に有り難い情報だ。先日の予選では、1位を逃す結果となった。経験の差はもちろんあったけど、そう言った細かな部分でも違いはあったのだろう。
正直なところ部活でやる内容や、SNSで何となく見た情報だけでは伸び悩んでいた。インフルエンサーもどこまで信じて良いかも分からないし。
その点このジムなら、山崎さんの様な正式にスポーツトレーナーの資格を持つ人のアドバイスが聞ける。
単に設備を使えるだけではなく、実際にトレーナーの指導を体験したからこそ分かったメリットだった。
「ねぇところで東君はさ、篠原さんとはどう言う関係なの?」
「えっ!? いや、別にどうというわけでは……」
「やぁ、やっているみたいだね」
どんなタイミングで来るんだよ。狙ったかの様に篠原さんが現れた。いつもの彼女とは違う、トレーニング用の格好をした姿は新鮮だった。
薄手のTシャツにショートパンツで、タオルを肩にかけている。それなりの運動をしたからか、やや上気した白い肌が艶めかしい。
汗をかいた姿が、先日の状況を思い出させて妙に意識してしまう。だからアレは風邪をひいていたからで、俺が特別扱いされたのではない。
早く忘れようとしても、たまにこうして脳裏に浮かんでしまう。あれは救急救命とか、その手の行為だ。男女のアレコレではないんだ。
「あんまり邪魔するのも良くないからね、私はこれで」
「はい、また後ほど…………ふーん、そっちのアドバイスも必要かなぁ?」
「い、いりませんよそんなの!」
颯爽と篠原さんが去った後に、山崎さんが意味有りげな視線を向けて来る。だから、それは誤解なんだって。
俺は別にそんなつもりはない。篠原さんみたいな高嶺の花と、どうにかなろうとは考えていないのだから。
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