第30話 結局残念ではある
予選は無事に終了し、うちの高校は見事トップで通過した。俺は区間2位のタイムでタスキを渡す事が出来た。
あと少しで1位を取れたのだけど、そこはやはり経験の差が出た。1位の相手は3年生だったらしい。仕方ないのは分かっているけど、悔しいものは悔しい。
本戦こそはと思っているけど、そちらの方が更に厳しいだろう。全国から予選を突破した強豪達が集まるのだから。
一筋縄ではいかないだろうな。それでも、出るからには1位を目指す! と言う新たな決意も、
『はぁ〜い! い〜ま開けるねぇ〜』
マンションの玄関ホールで、明らかに滅茶苦茶飲んでいるらしい声を聞いた。今日って月曜日だよな? と一瞬考えたけどあの人には関係ない事だ。
そもそもの出会いも、朝から酔って倒れていた現場から始まった。昨日の配信を観た限りでも、だいぶ飲んでいたっぽいのに今日もなのか。
これは覚悟を決めた方が良いかも知れない。風邪で控えていた反動が来たのだろう。相当に散らかっている事が予想される。
ある意味では、予選よりも緊張している。どんな光景が広がっているのか。意を決してエレベーターに乗り込む。
篠原さんが暮らすパデシオン
『ぃらっしゃ〜い
「お邪魔します」
うん、知ってた。土日の2日分溜まるため、月曜日はいつも酷いのは分かっていた。それにしても今日は、中々パンチが効いた散らかり具合だ。
何故そうなるかは分からないけど、玄関に500mlの缶ビールが置かれている。まだ未開封だけど、何故ここに置いた? 玄関にビールを飾りたいのだろうか。
リビングに向かいながら、脱ぎ散らかした服を拾い集めていく。流石に最近は努力してくれているのか、下着は落ちてはいなかっ…………落ちてんじゃねーか!
また忘れていたのかな? あんだけ酔っていたら、まともな判断が出来る筈ないよな。ドアノブにブラジャーを引っ掛ける意味とは? 魔除けか何かなのかな?
「篠原さん、下着はちゃんとうわっ!?」
「頑張ったね〜! おめでとう!」
「あ、ありがとうございます」
リビングに入るなり篠原さんに抱き締められた。胸板の辺りに感じる柔らかい感触、よりも酒臭さの方が勝つんだよな。
おかしいよな、篠原さんみたいな美人に抱き締められたら普通は嬉しい筈なんだよな。でもなんでこうなっちゃうかな?
俺もさ、素直に喜びたいんだよ? どうしてこう、極端なのだろうか。理性を削るイベントか、強制的に冷静にさせられるか。
そのどちらかしか発生しないのをやめて頂きたい。先日は酒臭さも無かったから、ドキドキさせられた。けど今回は流石に無理だ、あまりにもアルコール臭が凄い。
思春期の男子高校生としては、ちょっと嬉しいイベントぐらいで留めて欲しい。ごく普通に、ストレートに魅力を感じたいんだけどな?
極端な展開しかないのはどうしてなんだ。何と言うかこう、昔憧れた近所のお姉さんとの良い想い出ぐらいが理想なんだけど。
「咲人く〜ん、カッコよかったよぉ〜〜」
「はあ、それはどうも」
「焼きそば食べたい!」
「ああ、今夜ですね」
泥酔した篠原さんにはだいぶ慣れて来た。慣れてしまった。滅茶苦茶な言動をしていても、その中からして欲しい事を理解出来る様になった。
酔っ払いの相手をするスキルが上がっていく。将来使う機会があるのか分からない微妙な能力だ。
適当に篠原さんの相手もしながら、部屋の掃除を開始する。何をするにしても、先ずは掃除から始めないと何も出来ない。
あ、篠原さんまた灰皿ひっくり返したな? フローリングの隙間に拭き取りきれていない灰がある。
適当に拭かずにウェットティッシュを使って欲しいんだけどな。まあ別に構わないけど。俺がやれば良いだけだし。
「この飲みかけの水、要るんですか?」
「ん〜〜いらな〜い!」
「じゃあ捨てますね」
どうもこれは散らかす人の恒例らしい。飲みかけの飲み物を適当に放置するのは。毎回の様に、中途半端に飲んだペットボトル等が放置されている。
要らないなら捨てれば良いのに、何故か自分では捨てないのだ。全く意味が分からない。
ただ篠原さんの唯一マシな所は、汁の入ったカップ麺を放置しない事だ。なぜそれだけはちゃんと処理するのか以前に聞いてみた。
その答えは単純で、コバエが湧くかららしい。流石にそれは嫌だそうで、ちゃんとシンクに流している。
虫が湧くのが嫌なら、部屋を片付ければ良いのでは? そう思うのは俺だけでは無いと思う。
「このクッキーはまだ食べるんですか?」
「食べる〜!」
「じゃあタッパーに移しますね」
篠原さんの散らかし癖にはまだまだ色々ある。お菓子を中途半端に食べて、そのまま放置する。飲み物と全く同じパターンだ。
適当に放置するから、早めに処理しないと痛んでしまう。カビでも生えたら体に悪い。流石にこれだけ頻繁に、家事代行をしていれば大丈夫だとは思うけど。
ただ問題はテスト期間だ。流石にテストの時までバイトはしない。と言うか、それが篠原さんが決めたルールだ。
学業は絶対に疎かにしてはいけないと。そう思うなら、もうちょっと綺麗にして欲しいんだけどな。
「篠原さん、これは……篠原さん?」
「ゔっ」
「あ」
篠原さんはトイレに駆け込んで行った。流石に俺も同じ失敗を2度もやらない。それにしても吐くまで飲むのは本当に理解出来ない。
何か良い事でもあったのかな? まさか俺の事で2日も連続で飲み明かしたりしないだろうし。あんなになるまで飲んだって事は、投資にでも成功したのだろう。
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