第25話 律儀な男の子
ふむ、やっぱりただの風邪だったみたいだね。今朝からだいぶ体調が回復して来たのを感じる。
そもそも熱が出た時点で肉体は頑張っているのだから、1日も休めばもう大丈夫なんだよね。
ただ昔ほど頑張れなくはなった自分の体に、加齢を感じてはしまうけどね。ボクは大概頑丈なつもりだったけど、そろそろ30代としての生き方をしないと駄目なのかも知れないね。
「それにしても、
何と彼は朝から様子を見に来てくれた。そんなに心配しなくても、これぐらい大丈夫だと言うのに。
しっかり朝ごはんと、お昼ご飯も用意して学校に登校して行った。咲人君と関わる様になってから、生活環境はかなり良くなったのは間違いない。
先ず部屋の綺麗さが以前とは段違いだ。咲人が来ない日は火曜と木曜日、そして土日だけ。
2日分貯まった月曜日だけは結構散らかっているけど、他はかなりマシになった。あくまでボク基準だけども。
「37度か〜そろそろタバコは解禁で良いよね」
ボクは他人に喫煙を勧めないけど、1つだけ喫煙するメリットがある。それは些細な味覚の変化で、体調がすぐ分かる事にある。
例えば一昨日の夜とか、今現在の様に体調が崩れている時。味覚に変化が出ているので、いつもとタバコの味が変わる。
これを感じた時は、大体は体調不良の予兆なんだよね。流石にここまで崩すとは思わなかったけど。やっぱり歳なのかなぁ……悲しいね。
「ふぅ……この治りかけで吸うタバコもまた良いんだよ」
昔みたいに毎日コンビニで買っていた頃は、体調を崩したりすると手元にタバコが無くて困ったものだよ。
今では大量に購入してストックしてあるから、切らす事もなく安心して寝ていられる。大人になると言うのは良いよね。
本屋さんで全巻大人買いとか、やってみると気持ち良いんだよね。お酒も飲めるしタバコも吸える、良いことが沢山あるよ。
咲人君みたいな、若々しさは年々失って行くけどねぇ。こんな事をいちいち考えるのがおばさんの始まりなのかな。
「うん、やめやめ。お昼にしよう」
そんな悲しい現実は忘れよう。今は咲人君が作り置きしてくれたお昼を食べよう。良くあんな短時間で、キツネうどんなんて用意出来るよねぇ。
麺が伸びない様に、わざわざつゆ、と具材を別々にしてくれている。まとめてレンジでチンするだけで、咲人君お手製のうどんが完成した。
消化に良い物だけで作ってくれているみたいだ。細かい事にも気を遣う男の子だなぁ。咲人君が特別なのか、今の男の子は大体こうなのか。
その辺りは分からないけど、今は彼の厚意に感謝しよう。出前に頼らなくなったので、最近の食費がグッと下がっている。
通常の家事代行を頼むよりも、トータルでだいぶプラスになっているよ。金銭的な問題と言うよりは、生活のクォリティの面で。
「さて、薬を飲んだらまた寝ておこうかな」
この調子なら夕方には殆ど回復しているだろうね。2日休んでしまったから、明日からまた忙しくなる。
事務処理が貯まるのはちょっと面倒だけど、今は回復に専念しよう。下手に長引く方が後々面倒だからね。
ああそうだ、起きたら晩御飯だけは何とかしないとね。流石に夜までは咲人君も来ないだろうし。
もう大丈夫だと言っておいたからね。何でも彼に頼りっぱなしでは駄目だ。逆に頼って貰えてこそ大人だよね。
「と、ボクは思っていたんだよ?」
「何の話ですか?」
「招き入れるボクもボクだけどさ」
結局夕方に起きる頃にはまた咲人君が来ていた。律儀だねぇ君もさ。こんな15歳も年上のおばさんを相手に、そこまでしてくれなくても良いのに。
もっと学校の若い子達との時間を大切にした方が君の為になるんだよ? まあ助かるけどさ、昨日も助けて貰ったみたいだからね。
あんまりしっかりと覚えていないけど。何か色々やって貰った事は薄っすら覚えているんだけどね。このままではボクが、全然駄目な大人みたいで悔しいなぁ。
「大体ほら、大丈夫って言ったでしょ!」
「治りかけの時こそ油断は禁物ですよ」
「君、本当にお母さんみたいだね?」
昔母親に似たような事を言われたなぁと思う会話が最近多い。咲人君、ボクのお母さんと連絡取っていたりしないよね? 会った事もない筈だよね?
こうもデジャヴを感じて来ると少し怖いよ。咲人君の背後にお母さんの幻影が見えそうだ。
これでご飯の食べ方にまで小言を言われたらもうお母さんだよ。外食する時はちゃんとしているから、家で1人の時ぐらい行儀が悪くても良いとボクは思うんだよね。
たまにジッと見られている時があるから、そのうち注意されそうな気がしてならないよ。
「もうこの通り元気元気で、あっ!」
「危ない!」
流石にちょっと調子に乗り過ぎてしまったらしい。ふらついて倒れ込んでしまったみたいだね。
何かが下敷きになって助かったけど、人前でスッ転んでしまったのは流石に恥ずかしいかも知れない。
30過ぎた女が、ド派手に転ぶ所を見せてしまうとは。昨日から醜態を晒し続けているよ。
おかしいなぁ、カッコイイ大人の女性なボクを見せる予定だったのに。あれ、と言うか下敷きになったのって…………
「大丈夫ですか?」
「わっ、ごめん咲人君!」
「俺は平気ですから」
「……君、結構いい胸板をしているね?」
馬乗りになる様な形で、咲人君の上に乗ってしまっていた。どうやら彼が庇ってくれたらしい。
そう言う所も実にスマートで高得点だね。女の子に受けるのは君みたいな男の子なんだよね。見た目の割に筋肉質なのもポイントが高いよ。
今のはちょっとセクハラっぽいかな? でも誇って良いよ、そのガッシリとした筋肉を。あれ? そう言えば昨日も似たような事を思った様な?
なんて考えていたら、リビングのドアが開いていた。そこに立っていたのは、隣に住んでいる
「
「どういう事かな!?」
「未成年に手を出すなんて……私は悲しいです」
「誤解だよ!? そんな訳ないでしょ!?」
どうしてボクの知り合いは皆して、ボクが咲人君に手を出す前提で話をするのだろうね?
年下が好きだなんて、今まで一度も表明した事は無いんだけど。失礼しちゃうよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます