第15話 残念だけどスペックは高い
カラオケを散々楽しんだ俺達は、最後に
この辺りでは数少ない繁華街の1つであり、学生が遊んだり買い物をしたりするなら基本的にはここになる。
他の場所を敢えて選択する必要は薄く、大体の物はここで揃う。また駅としても重要な地点であり、新幹線や特急に乗るなら美羽駅を経由する必要がある。
そんな美羽市の中心地とでも言うべき街は、今日も大勢の人々が歩いている。日曜日の夜になっても、スーツ姿の大人達が居る。
子供連れの家族も居れば、俺達ぐらいの学生グループも居る。ハンバーガーショップの窓から、そんな風景が見えていた。
「てかさぁ〜マジで無いよね
「絶対当てる生徒を顔で選んでるよね」
「分かる〜バレてないと思ってるのかな?」
いつの間にか
俺でも気付くぐらいに、露骨に可愛い女子ばかり当てている。大人しくて目立たない子を指名している所は見た事がない。
あれで他意はないと言うのは無理があるだろう。学校には良い先生も居るけど、ちょっとなぁと感じてしまう先生も居る。
こればかりは仕方がないのだろう。嫌われている教師と言うのは、小学校でも中学校でも居たのだから。誰に教わるかを、俺達学生に決める権利はない。
「でも下田、
「
「甘いぜ
「はぁ〜?
「うるせぇ!」
中学時代から仲が良い一哉と斎藤さんが、いつもの遠慮がないやり取りを始める。阿坂先生と言うのは、美羽高校の養護教諭だ。
下の名前までは知らないけど、滅茶苦茶美人なので生徒の間では有名だ。アラフォーと噂されているが、そんな風には全然見えない。
クールでカッコイイ先生なので、男子だけでなく女子からの人気も高い。俺はそれほど興味がないけど、確かにあれはモテると思った。
その整った容姿は
阿坂先生が家ではズボラだとはちょっと思えないし。そんな風に2人の美人を脳内で比較していたら、野球部の
「なあ、そろそろ出ないか? 時間的に」
「おっと、そうだな。俺も帰って風呂の用意をしないと」
「え、
「そうだよ。うちは父子家庭だから」
一哉にならともかく、澤井さんにまでそう思われていたのなら悲しいな。俺ってそんなに家事出来そうには見えないのか?
昔からずっとやって来たんだけど。ケーキでも焼いてみせようか? マドレーヌとかも作れるぞ俺は。
山芋の煮物とか、おばあちゃんみたいなメニューだってお手の物だ。作れない料理なんて、専門的な物ぐらいだ。家庭料理なら大体は作れる。
「へぇ〜凄いね東君て」
「凄くはないよ。ただ出来ると言うだけで」
「え〜じゃあ今度お弁当作って来てよ東」
「良いけど斎藤さん、俺の料理食べたいのか?」
俺が料理も出来る話を出したら、何故かそんな話が出始める。食べたいと言うなら作らなくはないけど、彼氏でも無い男の料理をわざわざ食いたいかね?
一応はお金持ちの女性が満足する料理を作れてはいるらしいけど。ただそれもまだたった3回だけの話だ。
これから先どう評価されて行くかは分からない。飽きたと言われるかも知れないし、誰彼構わず提供出来る程の自信は無い。
もし将来料理人になる様な事があれば、かつてのクラスメイトに振る舞うのも有りだろうけどね。そんな風に会話をしていた賑やかな空気が一変したのは、その直後だった。
「おや? 咲人君じゃないか」
「え? 篠原さ…………ん」
「やあ、奇遇だね」
振り向いた俺の目の前に居るのは篠原さんだ。それは間違いないだろう。声も顔も篠原さんのものだ。
だけどいつもとは明らかに違う。草臥れたジャージ姿ではなく、高そうなスーツに身を包んでいる。
ほぼノーメイクみたいな普段通りの姿ではく、しっかりとメイクが施されている。確かに普段も美人だとは思っていた。
しかしこれは、次元が違う。どこからどう見ても、仕事が出来そうな超絶美女にしか見えない。
俺は幻を見ているのか? 篠原さんが篠原さんじゃないみたいだ。正直初見がこの姿だったなら、わりと真面目に好意を抱いたかも知れない。そう思えるぐらいには、大人の女性としての魅力に溢れていた。
「あの……その格好、は?」
「これかい? ちょっと東京まで打ち合わせにね」
「はぁ……そうなんですね」
「おっと、友達と一緒の所を邪魔したかな。それじゃあ私はこれで」
ヒラヒラと手を振りながら篠原さんは去って行った。一人称ボクはどうしたんだとか、色々と言いたい事はある。
だがそれ以上に、このカオスな状況を生み出した事について一言良いだろうか。たった一瞬の邂逅で、クラスメイト達からの質問の嵐だ。
何だあの美女はとか、芸能人なのかとか。どこで知り合ったのかや、どう言う関係なのかなど。
引っ切り無しに飛んで来る質問で、俺は針の筵になっている。見掛けたのに無視され無かったと言う意味では少し嬉しくはある。しかしこの状況は全く嬉しくない。
「エグい美人だったじゃん。今からバーとか行くのかな、東?」
「ハハハ……そうかもね」
絶対にそれは無いと断言出来る。篠原さんはどう考えてもさっきまで俺達が居た、ハンバーガーチェーンに行くだろう。
だってついこの間、チーズナゲットが食べたいと言っていたからな。それに篠原さんが、バーになんて行くわけない。
帰ってジャージに着替えたら缶ビールだ。俺にはその姿が鮮明に思い浮かべる事が出来る。
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