第14話 クラスメイト達とカラオケ

 初めてのアルバイト1週目を終わらせた俺は、一哉かずやに呼ばれていたカラオケに来ている。同じクラスの男女合わせて10人が参加していた。

 男女比はちょうど半々であり、5人ずつとなっている。男子は俺と一哉に、野球部の川上陽介かわかみようすけとサッカー部の宮下雄也みやしたゆうや

 そして俺達より頭1つ分は背が高いバレー部の安達真吾あだちしんごの5名となっている。一哉以外の3人とは結構良く会話をするので、メンバーとしては安定感がある。


「はい、次はあずま君だよ」


「ありがとう澤井さわいさん」


 この席順は間違いなく一哉の意思が介在している。俺の隣にわざわざ澤井さんを配置するとは。

 隣に座る澤井さんが、選曲用の端末を渡してくれた。彼女は平均的な身長のショートカットが良く似合う可愛らしい女子だ。

 一哉の言う様に、男子からの人気が高い。可愛いと言うのはそれだけで強い武器だが、澤井さんはスタイルも良いときている。

 そりゃあ男子が注目するのは当然だと思う。だが俺は別に、そう言う目で見てはいない。見栄でも意地でもなく、本当に特別な感情は無いんだけどな。


朱里あかり〜スプーン取って〜」


「うん、良いよ」


 そう言えば澤井さんの下の名前は朱里だったか。あんまり意識していなかったから忘れていた。

 女子バレー部でうちのクラスの中心人物、霜月しもつきさんが名前を呼ぶまで思い出す事が出来なかった。

 澤井さんの他に居る女子メンバーは、スプーンを受け取っている霜月さん……名前は確か美咲みさきだった筈だ。


 俺と変わらないぐらいの高い身長に、鮮やかな金髪がトレードマークだ。いつもポニーテールにしている綺麗系の女子である。

 彼女もまた男子からの人気が高い女子生徒である。そのすぐ隣に座っているのは水泳部の倉田くらたさん、名前は杏奈あんなだったかな。

 少し身長が低いけど、それが良いと言う男子は少なくない。黒髪をショートウルフにしており、小柄で小顔な彼女の魅力が良く出ている。


「東〜! マイクちょ〜だい!」


「おう! 投げるぞ!」


「あり〜」


 今俺がマイクを投げ渡したのは、斎藤花音さいとうかのんと言うやや派手な印象のある女子だ。一哉とは中学からの友人関係にあり、良く一緒に騒いでいる。

 ロングの茶髪に、軽くウェーブをかけているのが特徴だ。彼女もまたクラスの中心に居るタイプで、十分に可愛い女の子だと思う。

 ただ人によっては、性格がキツイと感じるかも知れない。単にハッキリ物を言うだけだと俺は思うが。


 そして今斎藤さんと一緒にデュエットをしているのが山本夏恋やまもとかれんだ。彼女も良く斎藤さんと一緒に目立つ事が多い。

 良くある黒いミディアムヘアだが、赤いインナーカラーを入れている。彼女も派手なタイプであり、斎藤さんと同じく人を選ぶタイプだろう。

 気の弱いタイプは合わないかも知れない。彼女はバンドギャル、略してバンギャと呼ばれるタイプの女の子だ。


「ごめん東君、ちょっと通して」


「はいはい、どうぞ」


「ありがとう」


 今部屋を出て行ったのが最後の1人、テニス部所属の新田にったさん。彼女の名前は美怜みれいだったかな。

 クールな印象を受ける女の子だが、決して冷たいわけではない。声を掛けても無視、なんて事はない。

 見た目だけならそう言うタイプには見えるんだけど。それにしてもまあ、見事にクラスの人気者達をこうも揃えたものだ。

 一哉のコミュニケーション力はやけに高いな。この集まりになら、金を払ってでも参加したがる奴は居るぞ。

 そんな場所に呼ばれたのは有り難い話ではある。ただ目的がなぁ……完全に一哉の誤解なんだよな。


「東君てさ、丁度良い距離感保つよね」


「距離感?」


「そう。あんまりグイグイは来ないじゃない?」


「それは……迷惑にならない様にしているだけなんだけどな」


 澤井さんにそんな話を振られた。カラオケの室内なので、会話をする為に少し距離が近くなる。その関係か、澤井さんからいい匂いがして来た。

 香水か何かだろうけど、女子を感じて少しだけドキッとした。いつも酒とタバコの匂いに包まれている人とは随分な差だ。

 本来こうなる筈なんだよな、あの人の見た目を考えれば。澤井さんとの対比が、より一層残念さを感じてしまう。

 篠原さんもちゃんとしていたらなぁと、改めて思ってしまう。まあその場合、バイトなんて緊張してやれないだろうけど。


「私、距離の詰め方が雑な人が苦手なんだよね」


「あぁ〜居るよなそう言うタイプ」


「だから東君は楽で良いんだよね」


「それはどうも?」


 良い評価、と思って良いのだろうか? 少なくとも悪い気はしない。気持ち悪いから近付くな、とは真逆の方向性だと思われる。

 友達は多い方が楽しいと俺は思うから、仲良くなれそうな人とは出来るだけ仲良くなっておきたい。

 一哉の考えている様な関係ではなく、あくまで友人として。大体澤井さんだって、わざわざ俺みたいな男を選ぶ筈がない。

 こんな女心を理解出来ない奴なんか。俺が恋愛に関わったりしたらまた、してしまうだけなんだから。


「どうかしたの?」


「何でもないよ、気にしないで」


「そう?」


 せっかく楽しい場なのに、余計な事を思い出して空気を悪くしたくない。せっかくの日曜日に、こうやって皆で遊んでいるんだ。

 今は楽しい事だけ考えていれば良いんだ。今日は夜まで、皆と一緒に過ごすんだからさ。

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