第5話 父親の許可
思いもよらぬ出会いから、月水金の部活終わりに家事代行を始める事に決めた。金額的に非常に美味しいと言うのもあり、断る理由も特に無かったからだ。
何と驚きの時給5千円である。後で調べてみたら、相場の料金よりやや高いらしい。何よりも高校生の時給としては、間違いなく破格の対応である。
そんな好条件である以上は、しっかりと働かせてもらうつもりだ。ただ俺は未成年だから、親の許可は貰う様にと念押しされた。
至極当前の話だと思うので、父さんには早めに話しておく事にした。
「なあ父さん、バイトしようと思うんだけど良いかな?」
「お前が? また急にどうしたんだ?」
「ちょっと色々あってさ」
自宅のリビングで、夕食をつつきながら父さんに報告する。父親である
本人が言うには運に恵まれたらしく、スイスイ昇進して今では支店長をやっている。それもあってわりとウチは裕福な部類だ。
そのお陰で
せめて自分の必要な物ぐらいは、自分で稼いで買う様にしようと考えた。それにうちは父子家庭だから、父さんが倒れたら収入はなくなる。
代わりに働く母親はうちには居ないのだ。もし何かあった時の、念の為と言う意味合いもある。
「バイトって、何やるんだ?」
「家事代行だよ」
「
「ああ、いやそれがさ。誘われたと言えば良いのかな?」
40歳を過ぎた父さんが、最近増えて来た眉間のシワを更に深める。俺としては普通のおじさんにしか見えないが、これでも昔はそれなりにモテたらしい。
スポーツ狩りにメガネ、ヒゲは綺麗に剃っているので不潔さはない。そんな父さんは、大学時代に人気者だった母さんをゲットしたのだとか。
自分の親がどうだったとか、あんまり興味はないのだが何度も聞かされた。酒に酔うとすぐ母さんとの思い出話を始める。
それだけ好きだったのは良いとは思うが、息子としては聞き飽きた話だ。浮気しまくりのクソ野郎だと知らされるよりはマシかも知れないが。
「……お前、それ最近流行りの闇バイトじゃないだろうな?」
「違うわ! 個人的に頼まれただけだ」
「もう少し詳しく話してくれ」
「あ〜だから、篠原さんって女性にやらないかって誘われていて」
あまりにも不名誉な篠原さんの醜態については敢えて触れない。勝手に女性のプライベートをベラベラと話すものではないだろうし。
と言うか、あまりにも酷いから説明したくもない。何のために目の前で吐かれた話まで父親にせねばならん。夕食を食べながら話す事ではない。
そしてちょっと思い出してしまった。どんなに美人な女性から出たとしても、吐瀉物は吐瀉物に過ぎない。そして俺にはそれで喜べる様なアレな趣味はない。
「で、これが篠原さんの名刺だ」
「最初からそれを出せよ」
「だって父さん、配信者とか良く知らないだろ?」
あんなに残念な女性だけど、意外にも篠原さんはVtuberの事務所を運営している女社長でもある。
その上、本人も結構人気のあるVtuberの演者だった。あんなに綺麗なのだから、てっきり顔出しでやっているのかと思っていた。
理由とかは特に聞いていないけど、それで儲けているのなら別に良いかと思った。俺は知らなかったけど、県内の遊園地とコラボまでしている人気ぶりらしい。
子供の頃に父さんに連れて行って貰った、あの遊園地とまさかそんな繋がりがあろうとは。
俺はスポーツ系やトレーニング関連の配信しか観ないから知らなかったよ。結構凄い人と知り合ってしまったみたいだ。
「馬鹿言うな、父さんだって知っているぞ。ほら……なんとかライブとか」
「フワッとし過ぎだろ! 一杯あるわそんな名称!」
「ま、まあちゃんとした話なら良いんじゃないか?」
適当な上に雑な許可を出して来るなぁ。まあ良いなら家事代行をやらせて貰うけどさ。普通はもうちょっと何か無いのか?
闇バイトを疑ったわりに、あっさりオッケーとか相変わらず適当だ。昔から父さんはこんな感じで、大雑把で適当な所がある。
だから色々とやり易い面もあるが、銀行の支店長が良くこれで務まるものだと疑問に思う。
俺のイメージ的には、もっとしっかりとした人がやる仕事に思えるんだけどな。大丈夫なんだろうか、父さんの職場は。
「で、その人は美人なのか?」
「え? ああ、まあそうだな」
「ははーん」
「あ! 違うぞ! それが目的じゃないから!」
ニヤニヤと缶ビールを片手に父さんがこちらを見ている。何を考えているかなんて、想像するまでもない。とんでもない誤解をされている。
容姿だけの話なら、確かに篠原さんは美人である。だけど中身の方が、少々特殊と言うか。
美人と言う大きなメリットを、余裕で掻き消す残念さが備わっている。多分あの部屋を見れば、大半の男性は回れ右をするだろう。
美人の部屋に2人きり、なんてムードは一瞬で粉々に砕け散る。どこからGが現れるかヒヤヒヤものだ。とてもあの部屋で、ベッドインなんて出来ないだろう。
「お前も思春期の男の子ってわけだ」
「だから! 違うって言っているだろ!」
「ま、大人の女性が相手にしてくれたら良いけどな」
そんなの言われるまでもない。10歳以上も離れているし、篠原さんも俺を男としては見ていないだろう。
最初からそんな期待はしていないし、あくまでバイトと雇い主の関係だ。それ以上でもそれ以下でもないんだから。
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