Part 4 : 不安な作戦会議
「まず、状況を整理するわ。」
空き教室に響く遥香の冷静な声。彼女は机に広げたノートを見つめながら、淡々と説明を始めた。
「依頼者の中島紗良さんは、クラスメイトの高橋翔君に片思い中。そして、今のところ二人に直接的な接点はほとんどない、と。」
「まあ、確かに。翔はいつもあの調子だし、紗良みたいにおとなしいタイプとは普段話さないよな。」
俺も思わず頷く。翔はいつも明るくて、どこに行っても人気者だ。正直、翔が片思いされるのは分かるけど、紗良とどう繋げればいいのか全然見当がつかない。
「だからこそ、きっかけが必要なの。」
遥香はペンでノートをトントン叩きながらそう言った。
「ふむふむ、つまり何かイベントを仕掛けるってことか。」
「そういう大げさなことじゃないわ。まずは二人を自然に会話させることが第一歩よ。」
「なるほどね。例えば……『偶然の出会い』とか?」
「例えば?」
「えっと、放課後の廊下とかで、わざとぶつかって教科書を落とすとか。それで『あ、ありがとう』みたいな流れにして……。」
そう説明しながら、俺は実際に手でぶつかるジェスチャーをしてみせた。
「……昭和のドラマ?」
「ひ、否定はしないけど、ちょっとは乗ってくれよ!」
俺がムキになって反論すると、遥香は小さくため息をついた。
「そんな不自然なやり方じゃ、逆に不審者扱いされるだけ。」
「えっ、俺の案、不審者?」
「少なくとも、私はそう思う。」
ズバッと言われて、俺は机に突っ伏したくなった。遥香の言葉は的確すぎて、逆に立ち直れない。
「じゃあ、どうするんだよ。いい案があるなら教えてくれよ。」
「もちろん考えてあるわ。」
遥香がノートにスラスラと書き込む手を止め、顔を上げた。その表情は自信に満ちている……というか、ちょっとドヤ顔っぽい。
「まず、紗良さんには簡単な『話題』を用意してもらう。そして、翔君がそれに興味を持つように仕向ける。」
「話題って何だよ?」
「例えば、高橋君の好きなスポーツやゲーム。それに合わせた話を振るの。」
「おお、そりゃ確かに自然だな……でも、どうやって翔が紗良と話す機会を作るんだ?」
俺が尋ねると、遥香はフッと微笑んだ。そして次の一言で俺を絶句させた。
「それを作るのが、あなたの役目。」
「お、俺!?」
「そう。あなたは高橋君の親友でしょ。まずは彼に紗良さんのことを話題に出すの。そして、彼が興味を持ったら、うまく橋渡しするの。」
「いやいや待ってくれよ!俺にそんな繊細なテクニックはないぞ!」
俺が必死に抗議すると、遥香は少しだけ眉をひそめた。
「じゃあ、あなたの役目は何?」
「……それは……」
何も言い返せずに口を開け閉めしていると、遥香はまたしても勝ち誇った顔になった。
てか俺はそもそもこの委員会に入った覚えはねぇけどな。
「やるしかないのよ、佐藤優斗。あなたは、すでにこの委員会の一員なんだから。」
「……くっ、無茶苦茶すぎだろ…」
完全に押し切られた俺は、机に突っ伏した。遥香はそんな俺を見下ろしながら、最後に一言。
「安心して、佐藤。大丈夫よ。あなたはただのコマなんだから。」
駒って言っちゃったよ。
何で俺、協力してるんだ?
こうして、不安だらけの初仕事が始まるのだった。
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