Part 3 : 最初の依頼者様


翌日、放課後。俺は妙な緊張感に包まれながら、またしてもあの空き教室に足を運んでいた。


「佐藤優斗、遅い。」


部屋に入るなり、遥香が腕を組んで俺を睨んだ。何度見てもその冷静な視線には慣れない。


「いや、これでも授業終わってすぐ来たんだけど?」


「準備が遅い。仕事をするならまず時間厳守。」


「え、俺、バイト始めたっけ?」


思わず突っ込みを入れたが、遥香は完全スルー。そして、机の上に積まれた書類の山をトンと叩いた。


「今日は依頼者が来るから、きちんと対応してね。」


「そもそも俺、どうやって対応すればいいか分からないんだけど?」


「簡単よ。私の指示に従えばいい。」


どうしてこんなに強気でいられるんだ、この人は……。


そんな俺のぼやきが終わる前に、教室のドアがカタカタと揺れる音がした。遅れて「入ります」と小さな声が聞こえる。


「どうぞ。」


遥香の静かな声に続いて、ドアの隙間から慎重に顔を覗かせたのは、俺たちのクラスメイトの中島紗良だった。


「こ、こんにちは……」


紗良は控えめに頭を下げながら中へと入ってくる。その動き一つ一つが小動物みたいで、見ているだけで心配になるレベルだ。


「今日はどういったご相談かしら?」


遥香が促すと、紗良は机の端っこにちょこんと座り、小さな声で話し始めた。


「あの……実は、好きな人がいるんですけど……その……」


「その?」


遥香がさらに促すと、紗良の顔が一段と赤くなった。


「ク、クラスの高橋君で……」


えっ!?


俺は思わず目を見開いた。だって高橋翔といえば俺の親友で、学校内でも「軽いノリのムードメーカー」として女子に人気だ。まさか、こんなに控えめな子が翔を……?


「ふーん。」


遥香は特に驚いた様子もなく、冷静に頷いた。そして次に俺の顔をじっと見つめる。


「で、佐藤優斗。どうする?」


「え、俺が決めるの!?」


「あなた、高橋君と親しいでしょ。何かアドバイスできると思うんだけど。」


「いやいや、俺にそんな責任重大な役割押し付けないで!?」


俺が慌てて反論する中、紗良は不安そうに俺と遥香を交互に見ていた。その視線に気づいた遥香が、少しだけ柔らかい口調で話しかける。


「心配しないで。絶対にうまくいくように手伝うから。」


「は、はい……よろしくお願いします……」


紗良が小さく頷くのを見て、俺はため息をついた。


「分かったよ、やるよ。翔が俺の親友じゃなかったら絶対断ってるけど。」


「決まりね。それじゃ、作戦を考えましょう。」


遥香は即座に作戦会議を始めたが、俺には彼女のやる気にまったくついていけない。いや、本当に大丈夫なのか?俺たちにこんな恋の仲介が……。


そんな不安を抱えながらも、初仕事は始まろうとしていた。

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