Part 2 : 正体

放課後。


「教室の隅っこ、暗っ!」


薄暗い廊下を歩きながら、俺はつい心の声を漏らした。校舎の端っこにある空き教室なんて、普段の生活で行くことなんてない。遥香の背中を追いながら歩いていると、妙に冷たい風が吹いてきた。


「ねえ、これ、本当に大丈夫?幽霊とか出ないよね?」


俺がそう聞くと、前を歩いていた遥香がピタリと足を止めた。そして振り返り、無表情のまま首をかしげる。


「怖いの?」


「……べ、別に。怖いとかじゃなくてさ!」


完全にバカにされた気がした。しかも、遥香が軽く肩をすくめた後の一言がまた強烈だった。


「安心して。この学校の幽霊、全員ダチだから。」


「えっ…」


「冗談。」


……冗談のトーンくらい、もっと分かりやすくしてくれよ。


そんなやり取りをしながら到着した空き教室は、予想通り埃っぽくて薄暗かった。遅い夕日が窓から差し込む中、遥香は机に腰掛けながら腕を組み、俺に向かってポンと手を叩く。


「さて、本題。」


「えっと……なんでこんなとこに連れてこられたわけ?」


正直、さっさと用件を聞いて帰りたかった。クラスメイトの好奇の目にさらされたせいで、今日は気疲れがひどい。それに、この空間がどうにも不気味で落ち着かない。


「佐藤優斗。あんた、秘密委員会に入るの。」



「……は?」



遥香は一呼吸置いてから説明を続けた。


「秘密委員会、通称『恋愛仲介委員会』。ここで、生徒たちの恋愛問題を解決するのが私の仕事。」


「いや、ちょっと待て。まず、恋愛仲介委員会って何だよ?」


頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされる。遥香はそんな俺の反応を全く気にせず、冷静に続ける。


「学校って恋愛の温床でしょ。でも、問題が起きることも多いの。片思い、告白失敗、嫉妬……。私はそういう問題を裏で解決してるの。」


「え、えっと……じゃあ、なんで俺が?」


遥香はフッと小さく笑った。珍しく感情を感じさせる表情だったけど、その笑みがどこか悪巧みじみていて怖い。


「簡単。あんた、目立たないから。」


「はあああ!?」


遥香は手を振って俺の抗議を制する。


「だってさ、他の男子だと目立ちすぎるし、女子だと感情が絡む。地味で普通な佐藤優斗は、ちょうどいいの。」


「俺は『ちょうどいい』要員かよ!?」


「そう。ぴったり。」


「褒めてる!?それ!?」


ツッコミどころが多すぎて疲れる。しかも、遥香の態度はあくまで冷静で、俺の反応を楽しんでるようにすら見える。


「いや、待てよ。俺、恋愛経験ゼロだぞ?そんな俺が恋愛問題を解決なんて無理に決まってるだろ!」


そう抗議すると、遥香は少しだけ眉を上げて俺を見た。そして、口元に薄い笑みを浮かべながら言った。


「だから、教えてあげるの。恋愛の何たるかを。」


「お、教えて……!?」


その瞬間、何か嫌な予感が全身を駆け巡った。遥香は俺の反応を楽しむかのように満足げに頷き、次の一言で完全に俺をノックアウトした。



「さあ、明日から活動開始。覚悟して。」



……これ、断れる余地、ないのか?


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