第40話 落とし穴

 開かれたページには、長い髪をなびかせる妖精の姿。その隣に書かれる文字。

 先ほど、すっ飛ばした文字を上からもう一度読んでいく。



 一応、目を通しはした。しかし、頭に文字の一つすら残っていない。




 ――名前、名前……名前?



 名前らしきものは載っていない。だが、扉についてのヒントらしきものを発見した。




「ねぇ! これってもしかして?」

「あぁ。扉を開けるヒントだろう」



 私はそのヒントらしきものを指でトントンとして、フロストにアピールする。きっとフロストから見た私は、目まで輝かせているに違いない。

 それほどに、ヒントを見つけられて嬉しいのだ。



 ――まさか、ヒントが!



 そう。ヒントというのも、扉の出現方法だった。

 まずは、足で踏みしめて太陽のマークを出す。それから、2度ジャンプをその場でする。



 すると、大きな太陽が現れる。それを鏡で、映し出すと扉が出現するという。



 その通りに私は、実践をした。大きな太陽……それはそれは、かなり大きな太陽だった。

 暗がりに顔を覗かせた太陽は、絵に描いたような太陽で、オレンジを通り越して金色に輝いていた。


 私たちを飲み込むのは容易い、と圧をかけられているような気さえしてくる。




 その圧力に怖さと、次に進めるというワクワクさの狭間に私は立っていた。ドキドキと心拍数は上がっている。

 フロストの鏡で、太陽の一部を映し出した。



 流石に太陽は大きすぎて、一部を切り取るのが精一杯だった。



 すると目の前に、光を帯びた扉が出現した。映し出すと同時に、イラストのような太陽は消えてしまった。

 代わりに現れた扉は、それだけが輝きを放つ異様な状況を生み出している。




 ドアノブにフロストが手をかけ、ぐるりと回して押して開く。今回のように扉を作って場所に入るのは、ジィランの時を含めて2回目だ。

 フロストにピッタリとくっつき、私も扉の枠をくぐる。



「この中に……太陽の妖精が、いるんだね」



 ごくりと喉を鳴らして、辺りを見回してみる。左右の壁に貼り付けられたロウソクに、入り口から奥に向かうようにして火が順番に灯っていく。



 ジィランの時とは違って、壁で灯るロウソクのおかげでよく見える。火があるかどうかの違いなだけで、床は石畳で壁と天井はコンクリートにも感じるような漆喰しっくいだ。



 無機質な冷たい雰囲気に、暖かさのあるロウソクの光がどうにもミスマッチに感じさせる。




 淡々と続く石畳の道を進んでいく。私の足音とフロストの足音が響き、一定のリズムを奏でる。



 

「また、名前のヒントがどこかにあるかも!」



 私の声が数回響き、語尾部分がもう一度自分の耳に戻ってきた。辺りをキョロキョロとしつつ、私はヒント探しに熱心になっていた。




(名前が分かれば、私も呼び出せるんだから!)




 森の時と同じで、歩いても風景は何も変わらずただずっと奥まで道が続くのみだ。一向に進まない太陽の妖精探しに、地団駄を踏みたくなる。


 さすがにそんな幼いことはしないが、心の中では踏み鳴らしてしまっていた。




(こういうのはどこかしらを触ってみると、とか?)




 そう思った私は、壁を少しペタペタと触ってみた。フロストの足音だけが、天井に跳ね返っている。




 指先で壁をそっとなぞりながら、私も再度歩き始めた。壁に触れるざらりとした感覚が、指先をつたってくる。




 自分が先にヒントを探し出したい。そんな思いでいっぱいだった。なんだかんだと言いつつも、この旅を私は心底から楽しんでいた。




 ――カクンッ



 指先が何かに触れたと感じた時には、その何かを押し込んでいた。押し込まれた物が、擦れる音が聞こえてきた。

 指先と耳でそれを感じ、掴んだヒントを手繰たぐり寄せようと目を見開いた。




 指は動かさないまま、ゆっくりと身体を壁側に向ける。見開いた目を触れたものに注目させた。




「太陽のマーク……だ」




 足元で光った太陽のマークと同じ、イラストのようなマークだった。急にマークが光を放つ。

 その刹那、触れていたところが急激に熱くなった。



「あっ、つ!?」


 

 指先が焦げてしまうのでは無いかと思われるほどの熱に、思いっきり手を引っ込める。

 指先がじんじんと麻痺をして、火傷したことを思い知らされる。火傷独特のヒリつきを感じ、手を振って冷ます。




セニエ癒し

「わ! 治った! フィル、ありがとう〜」

『はいはい』



 手の痛みが治った、と喜んだのも束の間。床がぐにゃりと歪み始めたのだ。足に力を入れて近くの壁に手をついた。



 ジィランの魔法に比べると、優しいほどの地震だ。それでも、歪む地面に敵うわけはない。



「フロスト!!」



 壁に這わせた手を離して、フロストに手を伸ばす。こちらを彼が振り向いたところで、床に穴があいた。



 足先から浮遊感を感じ、鳩尾みぞおちに力がぎゅっと無意識のうちに込められる。



 ――ヒィィ!? 落ちる!?


 

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