第39話 森の奥
今回のこの森に、この明るい妖精がいるとは思えず少し疑いの目でコンパスを見る。私の視線に気がついたようでジィランは、赤の矢印を1回転させてから同じ場所に戻ってきた。赤の矢印は、ピッタリと動きを止めた。
その動きが、疑われてもウソではないと示されている気分になる。
『こっちで間違い無いから』
さらには、言葉で釘を刺される。私の疑惑の視線を送ってしまったことが、罰が悪くなり泳がせた。
「う、疑ってるワケじゃないよ……」
『ふーん』
信じてはもらえないだろうし、疑ったのは本当のことなのでしどろもどろとなる。大切な本を胸に抱きしめ、ジィランのさし示す暗い森を抜けていく。
かなり奥に進んできたが、全くもって辿り着かない。だんだんと、疲れによる足の重さを感じて歩くスピードを落としてしまう。
トボトボと歩いていると、フロストが私の速度に合わせてくれる。私の胸につけられた花の妖精フィルがため息をつき、癒しの力を使ってくれた。
『
そのおかげで足の重さは軽減され、歩くスピードを上げることができそうだ。しかし、なかなか辿りつかなくて心の重さは晴れないでいた。
フィルの癒しの力を使われ、隣のフロストはゆっくりと歩きにくそうにスピードを合わせている。
この状況は確実に、スピードアップを求められているのだろう。私は一度立ち止まり、気持ちの切り替えのために瞳を閉じて深呼吸をする。
上空でフクロウが翼をはためかせる音が響き渡り、木々が風によって揺れる音が永遠に続いていた。
耳奥で耳鳴りのように鳴っているのか、果たして本当に上空で絶え間なく音を鳴らしているのかわからなくなっている。
「……一体、どこまで行くの?」
その音をかき消すように、思わずため息混じりに小言を漏らしてしまった。
目を開いても閉じていても暗い中に突き落とされていて、微かな光だけが頼りになっている。それにウンザリとしてきていた。
「まだまだ、先がある」
「ひぃ……」
疲れが取れたはずの身体を引きずるようにして、フロストに続いて歩く。嫌々だが、確実に森の奥にさらに足を進めている。
私はそんな思いを抱きつつも一歩足を踏み出すと、上空で音を立てていたフクロウの音が止まった。急に静かな空間と化した。
出した足に反対の足を揃えて立ち、辺りを見渡す。フクロウ以外に変わった様子は――なんの光!?
突然、私の足を中心にぐるりと一周光が走り出す。光の線が浮かび上がり、太陽のマークを生み出した。光に囲まれた私は、その場から動けないでいた。
金縛りにでもあったかの如く、頭の中で言葉は走り回るのに声には出せない。
身体も動かそうにも、力が巡らずに動けない。
瞬きをするのがやっと、といったところだ。
「扉だ」
フロストの声に、ここが太陽の妖精のいる場所に繋がる場所であることを認識する。しかし空は木々が覆い尽くしており、月も太陽も鏡に映すことは不可能だった。
光といえば、フロストの光魔法が思い当たるぐらいなのだ。
返事をしたくとも頷くことは愚か、声も出せないでフリーズしている。
フロストは、私の目の前で手を振って意識の確認をし始めた。もちろん、反応を返すことはできない。
――フロスト、頭は動いてるんだけどね!
忙しなく、頭の中は文字で埋め尽くしていた。しかし、言葉にはならず、歯がゆい思いだ。
フロストは、手元にあるコンパスに視線を落とし赤の矢印の方角を確認している。やはり私のいる場所を指し示すのか、私に向いた体の位置が変わらない。
「太陽の妖精の名は?」
『……』
フロストの圧の籠った声に対して、ジィランは無言を決め込む。水の妖精シュイの時に、ぽろっとこぼしたのを忘れていないようだ。
次は、言わないように気をつけているのだろう。
ジィランの時もそうだが、名前というのはおそらく呼び出したり扉をつなげる大切なものなのだと想像される。
――そういえば、女神様も"我が名を呼べ"って言ってたもんなぁ。
「ここまで連れてきてくれたのに、教えてくれないの?」
『名前じゃない』
「じゃあ、何で扉は開くの?」
返事の代わりに、コンパスになったジィランの赤矢印がぐるりと動く。そして、私の抱きかかえている本に矢印が向いた。
やはり、本に書かれている説明に何かヒントでもあったのか。そう思い、もう一度開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます