第37話 ラミー

 オーロラのような光に身を包まれる。七色のような色んな色を、目を閉じているのに感じられた。


 私の声が響いたこと、そして私の頭の



「我が主よ」




 その声に、私は違和感を覚えて目を恐る恐る開いた。まばゆいオーロラのような光に目をチカチカとさせる。



 目の前には、きらびやかな王冠を身につけた大きな身体の女神らしき人物がいた。彼女の瞳は閉じられており、瞳の色はわからない。長く揺れる髪の色は、私と似て栗色をしている。




 そしてその女性は、私に手を差し伸べていた。大きな手のひらは、私が乗っても問題がなさそうな程の大きさをしている。

 その手のひらを私は、じっと見つめてしまう。




 しかし私は、ハッとなり下を見る。

 この女性よりも、今現在のフロストたちの闘いの行方が気になるのだ。




 フロストの氷の剣は、欠けてしまっていて相当な戦いが起こっていたことを想像させる。



 ――この無音空間で、何が……



「主?」




 大きな顔をこちらに近づけ、巨大な女性は不思議そうにしている。





「わ、私!?」

「我を呼んだではないか」

「本当に、女神さま……なの?」

なり」




 パチクリとさせつつも、私はこの状況を打破しなくてはならない。

 強く願ったからか、私は女神を降臨させられたようだ。それならば、それを利用しない手はない。



 さらには、私のことを”主”と言っている。それならば、私が何とかしなくてはいけないだろう。




「女神さま?」

「我の名は、ラミー」

「ラミー? お願いなんだけど、フロストを救って欲しい。そして、あわよくは……古代魔法を手にしたいの」

「御意」





 ラミーは、大きな両手を合わせて口元にもってきた。両手の隙間に唇から空気を送り、大きな鈴の音が聞こえてきた。

 地響きとも思える音に、びくりと肩を振るわせて驚いてしまう。




 心臓が3秒ぐらいは、止まってしまったかもしれない。それほど、轟音ごうおんだった。





「わかったよぉ〜! 女神さまが出てくるなんて、ボクでは敵わないよっ」




 それだけいうと、シュイは水の中に潜り込んだ。シュイの言葉によって、周りの音が戻ってきた。

 水に潜り込む音が、久しぶりの音だからか耳元で聞こえるように感じさせる。




 水が完全に干上がって、綺麗な透明度の高いブルーのビーズでできたブレスレットに変わった。

 フロストが、それを拾い上げて湖になっていた窪みから飛び上がって出てくる。




 それを見つつ、ラミーが大きな手のひらで空中にまだいた私をすくい取り地面に下ろしてくれた。




『ボクは、主と認めないんだからぁ!』




 シュイは、プンスカと文句を言い続けている。シュイが、妖精からブレスレットの形に変わってから、滝が息を吹き返した。

 勢いよく吹き出して、空になった湖を水で満たしていく。たっぷりと注がれる水は、湖を潤した。



 澄んだ水は、飛び跳ねて光を反射させる。その反射でラミーの髪が照らされて、キラキラと輝いて見えた。


 にこやかな穏やかそうな笑みに、彼女がまとうオーロラの光に神々しさを感じる。


 


「あなたの名前は、ラミーなんだよね? でも、私が呼んだ名前は……違うよね?」

「あぁ。"セレティア"というのは、神である我が名。そして、"ラミー"というのが本当の名」



 

 ――本当の名で、呼んでもらいたいよね。



 ラミーの説明で勝手ながら、彼女の言いたいことに同感してしまった。

 

 

 おそらくだが、よく聞く神になる時に人間の時の名前を捨てる。そして、新たな神の名前で生きていく。といったところだろう。



 という私は、別に変なあだ名をつけられた経験も別の名前なんて存在も無いのだけれど。それでもラミーの女神としての姿を見ていると、何故だかその気持ちを理解できてしまった。




「それでは、我が主。我を必要とあらば、呼ぶといい」



 光の残像だけを残し、彼女の姿は消え去った。姑の小言の如く、シュイはまだぶつぶつと何やら文句を垂れている。彼女は、女神であるラミーの姿が消えたことには気がついていないようだ。



 私は、ふと疑問思ったことを胸元につけられたブローチ型の花の妖精フィルに聞いてみることにした。



「ねえ、フィル。その姿になったら、妖精に戻れるの?」

『無理よ。主となった人物に従うしか無いのよ』



 ――と、なると? 文句を言ってるけど、シュイもフロストに従うってことになるのでは?



 そんなことを考えていると、フロストに話しかけられた。



「女神はどうやって?」



 私がその立場なら、全く同じ質問をしているだろう。しかしながら、本人である私ですらよく分からない。

 首を横に振って、何も知らないアピールをしてみた。現に、根掘り葉掘り聞かれたとて何も回答することはできない。

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