第30話 のんびり

 ジィランは、地面の妖精で地震を起こすこともできる。大きな揺れによって、背中に傷を負った。なんとあの大きな揺れだったのに基礎魔法だという。


自然に起こる地震よりもかなり揺れたように感じ、狭い範囲だけでの揺れだったのだ。

 完全に指人形の如く勢いで、私は吹き飛ばされてしまった。

 

 

 自分の身を守るために出した、フェルマノ岩の手はジィランの古代魔法なのだそうだ。



(基礎魔法の威力が……凄かったんだよなぁ)



 傷を負ったからか、基礎魔法である地震魔法の方が印象的だった。



 今回の、花魔法使いであるフィル。こちらは、メルシオン和解の道が古代魔法だ。




 私もひとりだったら危うく、手の上で転がされていただろう。自分の意思とは違う誰かが、私を操る感覚なのだ。

 どう足掻いても、そこにおちいったら抜け出せない。



 あの深い青色に吸い込まれてしまいそうに感じ、気がついた時には飲み込まれていた。しかしその古代魔法が使えるということは、この先は少し安心だということだ。



 ホッと肩の力を抜いた。そこに横槍が入れ込まれた。


「香澄。まず、興味を惹かなければフィルの古代魔法は無意味だ」



 フロストには、私の考えが読まれていたようだ。その肝心なことを忘れていた。

 あの可愛らしい雰囲気のフィルだから、成せる技な気もしてくる。




 ――私は、絶対に無理。でも主人であるフロストなら……いけるんじゃ?




 勝手ながら、その心配は問題なさそうだ。フィルの古代魔法を使えば、戦わなくても和解という形で手に入りそうだ。



 魔王であることを言ったら、それだけで興味を惹くだろう。さらには、この容姿なのだから。





「それなら、大丈夫そうだね」

「……妖精は、そんな簡単にいかない」



 私は少し小首を傾げ、フロストを見上げる。




「でもこうして、ふたりも手にしたのに?」

「この後も、うまくいくとは限らない」




 彼は、ここまでも徹底した慎重ぶりだ。石橋を叩いて渡るかのように、着実さを選んでいるように感じる。

 その割に、最短ルートで渡っていくから不思議だ。



「次はどうする?」




 私は、宙に浮かせて運んできた大きな荷物を指をさした。かなり大きなサイズで、中にはテントなんかも入れていたのを確認している。




 それで、この辺りにテントでも張ってとするのだろうか。それとも、まだ日中であるのであれば探索を続けようとするのか。

 その判断は、彼に委ねようと思った。





 その意図を汲んでか、ジィランであるコンパスをフロストは確認する。

 動いは止まっており、項垂れるようにして赤の矢印は下に傾いている。反対側の銀色の針は、天井のガラスにつきそうなほど跳ね上げていた。

 



 この調子では、次の妖精の場所を教えてはくれなさそうだ。テントを張るのは時間もかかりそうなので、もしかしたらちょうどいのかもしれない。

 


「テントを張って、明日に備えるのが良さそうだねぇ」

 


 のんびりと私が提案をしてみる。こくりと頷いた彼は、大きな荷物を梅の木の側に着陸させた。

 かなり重たいようで、少し伸びていた雑草を一気に踏み倒した。




「香澄は、ここにいろ」


 簡単に指示を出された。二つ返事しか受け付けてはくれない。というよえりも、決定事項を告げられたようにも思える。


 

 私にとってのブラインドタッチのように、至極簡単に荷解きをした。梅の木から、タープをかけて木陰を作る。その下にテントを張っている。




 大人しく私は、その光景を眺めていることしか許してもらえなかった。折りたたみ式の椅子を早々に取り出して、私をその椅子に座らせていた。



 なので、なおのこと私は遠い目で見守るしかできなかった。



 手際の良さから、普段からキャンプでもしていそうだ。



「こういうのには、慣れているの?」

「いや、説明書を覚えているだけだ」




 ここにくるまでの間に、組み立て方を暗記を知っていたようだ。そんなそぶりも感じなければ、読んでいるところも見ていない。





 ファンタジーの中の住人は、私からみると全てにおいて理解ができなさそうっだ。





 じっと彼を眺めていたら、大きなテントが完成していた。これほどの大きさなのに、ひとりでやってしまうのだから不思議だ。




「大きいね! 組み立ててくれて、ありがとう」

「ああ」


 

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