第14話 遠足気分

「香澄……遠足じゃないんだ」

「え! わかってるよ!!」



 少し呆れ気味のフロストが、苦笑いをしながらも私の様子を見守っていた。

 その表情が、どこか優しげで私は心地よさを感じていたのだ。それに甘んじて、今の状況を作り上げている。


 

 それも、私の周りには冬服が散乱している。その中心にいる彼女の足は埋まりそうになっていた。真剣に悩みながら手に取ってる姿は、遠足のおやつ選びの子供さながらの絵図になっている。



 どこをどうみても、浮かれている幼稚園児だろう。



 フロストは知らないが、私は昨晩から遠足気分でよく眠れていない。

 しかしそのうっすらと滲む目の下のクマは、楽しみさで消えそうだ。『わかってる』と言っている割に、遠足気分に浸っていた。


 そんなことは、隠しきれないと理解している。それでも止まらない脳内の言い訳。



(寒くなったら困るし! 準備できることはやりたいんだもん!)



 しかしそんな言い訳が顔に出ていたようで、フロストの目の色が少し変化した。じっと見られる視線を針のように感じて、散らかした冬アイテムを急いで片付けた。



 

 バタバタとした動きで、すでにクッションの上に座っていたフロストの隣に腰を下ろした。

 背もたれ代わりにソファーベッドにもたれかかっている。



 外から、鳥の声と子供の声が聞こえてくる。今日も1日がはじまろうとしている。

 清々しい朝なのに、どこか気怠げでこのミスマッチさが不思議でならない。


 

 それにしても朝早過ぎて、夜までかなり時間がある。持て余した時間などこれっぽっちも無いはずなのに、ついのんびりとしてしまいそうになる。


 ふわっと欠伸をひとつして、伸びをした。背中が伸びたことで、肩周りが楽になった気がした。



 

(あとやること……やること……)



 やるべきことがありすぎると、何から手をつけようか悩んでしまうものだ。取り敢えずと座って仕舞えば、もう立てなくなる。




 今の私が、まさにその状況だった。頭の中だけは、やるべきことについて考えている。


 

 それなのに重たい身体は、1ミリも動かない。眠気に襲われて、ウトウトとし始めた。

 頭が船を漕ぎ、瞼は徐々に重さを増して必然的に閉じていく。



 眠気もマックス値に到達し、夢の中に落ちた。

 

 

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