第11話 フロスト(視点 フロスト)
空が仄白くなり、冷えた空気がのぼる太陽によってそのうち温められる。
春の朝は、まだまだ肌寒くてひんやりとする。静けさを帯びた
そんなまだ朝も早い時刻に、フロストは起きていた。もちろんしばし眠りと戦っていた香澄は、夢の中でむにゃむにゃとしている。
フロストは、この早い時間に起きたのも理由があった。こちらの世界には、魔法が存在しないのだ。
自分の力は果たしてこの魔法のない世界で、いかほどなのか。気になって仕方がなかった。
それを確認できるのは、人がいない時間である朝方を狙うしかない。
サッと手のひらの上に氷の結晶を生み出した。
氷魔法こそが、真の魔法使いだ。とされている魔界に住んでいた。氷魔法の使える男児のみが、魔王になることができるのだ。
フロストの兄弟は、フロストを含めて10人もいた。しかしながら、誰として氷の魔法を使えなかった。
そのためか争いを産まず、兄弟全員が仲が良かったのだ。しかしながら、後継者のいないという焦りを覚えた父親が妾との間に子をもうけた。
ーーそれが、フロストだった。
フロスト以外の兄弟は皆、正妻との間に生まれた子どもだった。
しかしながら、少しの疎外感を感じさせないほどの仲の良さだったのだ。
魔王の血を受け継ぐものは、3歳になると得意魔法を検査をする。さらには、魔王としての魔力量があるのか無いのかを調べ上げられる。
そう言われた先に待っていたのは、鎖に繋がれたような生活だった。
自由に外へも出歩けず魔王になるための教育を受け続けた。自分を隠して
検査を受けた兄弟たちは軒並み『水魔法使い』やら『風魔法使い』と言われてしまっていた。
父は手に汗滲む思いで、フロストに願いを込めるような仕草を毎日し続けた。その甲斐あってかフロストは、その検査で『氷魔法使いで魔王ほどの魔力をもつ』と言われた。
その瞬間から魔王として育てられた。
父は今まで飲む苦労が報われたと、喜びに満ちていた。
当の本人であるフロストは、兄弟や家族とは切り離された世界に押し込められた。本棚に四方八方を埋められ、常に監視されている生活が始まったのだ。
思い出すだけで息が詰まる、そんな苦しい生活だった。しかし、そんなたくさんの本の中に、妖精について詳しく知ることができたのだ。
その当初のフロストは、妖精についてあまり関心を抱いて無かった。それもそのはず、兄弟は皆仲良しだったのだから。
しかし、父が病気で倒れた。
それを境に、フロストも兄弟たちと話す時間ができ孤独から解放された思いになっていた。
それも束の間だった。1番上の兄が突然、フロストに刃を向けた。
『長男なのに何故、自分が魔王に選ばれなかったのか』と言う気持ちが、震える刃先からヒシヒシと痛いぐらいに感じていた。
それでもこの
父が託してくれたこの場所だけは、譲れないのだ。何があっても、守り続けなくてはならない。
そして、ふと思い出したのは
ーー父が生きている間に、この魔界の安然を見せたい。
強行突破であることは重々承知の上。そんなことを構ってられるほど、父には余裕がなかった。
余裕がないと、自分自身に言い聞かせているようでもあるが。それぐらいに急かして日本を目指した。
なんとかあの書庫のような牢獄から、探し出すことに成功した。『7匹の妖精を集めれば、さらなる力を得られる』と記載されていた。
魔法というものがないからこそ、”妖精”として神の力を維持できるのだろう。
かなりの力を保有する"妖精"は、魔法使いの力を高めてくれる。魔界に伝わっていた話では”日本の妖精”というのは、喉から手が出るほど欲しくなるものだ。
その力を手にするということは、すなわち魔王になれるということだ。
しかしながら、こちらにくるには氷の鏡がなければ来ることができない。その鏡を生成するには、魔王レベルの魔力を必要としているのだ。
なんとも矛盾を感じさせる仕様になっている。
――自分に残されてる手段を全て使ってやる。
魔力をある程度使うが、それでもこれからの魔界の安念のために日本にやってきていた。妖精を手にして、なんとか力を高めたい。
あの鏡を生成するときに失った分の魔力を回復され、どれだけ今魔力解放できるのか。正直わからない。
魔法の使えない香澄が一緒に行くのだから、守らなくてはいけない。そのためにも、早く起きてその確認をしておきたかったのだ。
手のひらを目の前に差し出して、じっと見つめた。そこには、先ほど手にした氷の結晶は消えて無くなってきた。
手の温度で消えてしまったのか、はたまた魔力切れを起こしたのか。どちらともなのだろう。
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