第3話 恋敵は騎士副団長〖サーシャ・アーノルド〗

〖シルの森〗


「機天騎士団。第三先遣隊は周囲の警戒と拠点の設営を急げ。第二先遣隊は〖記録院〗〖開発課〗の護衛を、そして、第一先遣隊は〖ハーピストの渓谷〗への突入に備え休息を取れ」


「「「「「ハッ!」」」」」


 お仕事モード中のロロギアさんが騎士団の方達に、真剣に指示を伝えていました。


 この光景、普段のふざけたロロギアさんを見ているので、今でも信じられませんね。


「……ねえ、マリー、あの娘。ずっとリク君の事、見てるわよね? 気づいてた?」


 アイナさんが私の右耳に手を当てて、尋ねてきました。


「えぇ、いちを。ですが、あの人は私を見ているというより……私の隣で開発長とお喋りしているリク先生の見てるのでは?」


「あー、やっぱり、そっちか~、いやー、まぁ、昨日の夜からストーカーしてんだから、そうだろうとは思ってたけど。リク君も面倒くさい娘に好かれるもんだねぇ。マリー」


「はい? 何の事ですか? アイナさん」


「おーい。声が魔機音(リール)になってるぞぉー、戻ってこい」


コンッ!コンッ!コンッ!


 アイナさんは私の頭を軽くコンコン叩き始めました。


「ア、アイナさん。や、止めて下さい。私を壊す気ですか?」


「マリーのメンテナンスは毎日、私がしてあげてんだから、そう簡単に壊れないわよ」


「……万が一がありますから」


「んー……なら、〖天のルルエラ像〗はマリーに渡しとくわ。それを持ってれば、〖加護〗が与えられるから。安全性が増すでしょう」


「い、良いんですか? これはそもそも、ラテおじ様がオークションで落札されものですよね?」


「んー? 別に良いのよ。そもそも、それは最初っから、マリーに渡す為に、パパが勝手に落札しただけなんだかさぁ」


「ラテおじ様が、私の為に?」


「うんうん。皆、マリーが心配って事だな。良かったね。私やパパみたいな過保護様が居てさぁ。泣いて喜ぶのだぞ。マリー」


「アイナさん……ありがとうございます!」


 私はアイナさんの両手を掴んで、感謝を伝えました。


「……歓談中失礼します。単刀直入にご質問させて頂きますが、貴女方のどちらがマリア・シュリルさんでしょうか?」


「……え?」

「この娘……(うわぁー、直接やって来るなんて、良い度胸してるわね。この副騎士団長)」


「……失礼しました。先ずは自己紹介からでしたね。私は機天騎士団・副団長〖サーシャ・アーノルド〗と申します」


 騎士鎧を着た。女性が私とアイナに自己紹介してきました。


「は、はぁ、自己紹介ありがとうございます。私がマリア・シュリル。政庁の〖記録院〗でリク・テリクス先生の〖手記〗をお手伝いしています」


「あー、それで私がね……」


「そうですか。貴女があの名門貴族シュリル家のご令嬢にして、アークス教団が起こした〖呪い人形〗事件により、壊れやすい実律型人形(マギ・オートマター)に堕ちた人成らざる物ですか」


 このサーシャ・アーノルドと言う方。私に何か恨みでもあるのでしょうか? とても挑発的な態度で私に話し掛けて来ました。


「ちょっと! 貴女、幾ら機天騎士団の副団長だからって、そんな言い方……」


「何ですか? 〖開発課〗の副開発長のアイナ・カンデラさん」


「つっ! アンタ。最初から私の名前知ってて話しかけたわけ? 最初の態度はわざとだったって事?」


 サーシャ・アーノルドさんの態度はとても悪かったです。それに対して、アイナさんは顔を赤くして怒り始めました。


「アイナさん……私は何ともありませんから大丈夫です。私は人形ですので、何ともありませんから」


「何ともないって、マリー、その顔……」


「怒ってません」


「フフフ、実律型人形(マギ・オートマター)なのに、表情が豊かなんですね。人形のくせに……丁度、リク・テトリクさんは何処かに行ってしまいましたね」


「……まさか、それも計算に入れてたの? 性格悪すぎじゃない? 貴女」


「別に貴女には何もしませんよ……マリア・シュリルさん。私、実律型人形(マギ・オートマター)は戦闘とっかの人形もあると聴いた事があるんです」


「そうなのですか……」


「えぇ、だから、一度、私と闘ってほしいんですよ。私、気になるんです。機天騎士と実律型人形(マギ・オートマター)のどっちが強いのか。とても気になるんですよ」


カシャンッ!


サーシャ・アーノルドはそう告げると、私の目の前に一つの剣を地面に落としました。


「ちょっと! アンタ! 頭、可笑しいんじゃないの? 自分が何をしてるのか分かってんの? マリーはこれでも」


「……これを拾って貴女と闘えば良いんですか? サーシャ・アーノルドさん」


「フフフ、えぇ、それで私と貴女のどっちが強くて、リク・テトリクさんの隣に相応しいか分かりますから」


「そうですか……では、やります」


「ちょっと! マリー、待ちなさい。そんな事すれば、コイツは」


「フフフ、静かにした下さい。アイナ・カンデラさん。シシル、試合の合図をお願いします」


「……はい。サーシャ副団長……両者構え……それでは…戦闘開始」


「……行きます。〖シル〗」


スパンッ!


「フフフ、その綺麗な人形の身体、切りつけて、破壊……は?」


「〖イル〗」


バキッ!


「なっ? 私の剣が折れて……」


「〖ウル〗〖ハル〗〖ティル〗」


「な?……ちょっと待ちなさい。私は今、武器を……」


「あぁー、言わんこっちゃない。マリーの奴、完全にスイッチ入っちゃったじゃない。壊されるわよ。アンタ」


「〖ソル〗〖エル〗〖ドル〗」


「ま、待って!私の鎧が壊れ……」

パッキン!


「ガァ?……アアアアアアア!!!!私の腕が折れ……」バキッ!


 早朝の〖ウルの森〗にサーシャ・アーノルドさんの叫び声が響き渡りました。


「……マリーは幼少期から、シュリル家の訓練でずっとダンジョンに居たから強いって言おうとしたのに……バカなんだから。もう」


アイナさんは深い溜め息をついて、意識わ失ったサーシャ・アーノルドさんを見つめていました。

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