第2話 夜の鳥獣戯
〖シルの湖庭園〗夜
ホーホー、ホーホー……
ホーホー、ホーホー……
シルの森は小天獣(シテクス)達の理想の園とされています。
南の地〖空宙草原〗の様な害鳥や害獣の脅威も皆無で、小天獣(シテクス)達が自由気ままに生き、夜の森も静寂が包み。
森の入り口近くには、政庁の管轄である〖観光課〗が設営した〖シルの湖庭園〗があり。
マキナ公国の若き男女の憩い場として、とても人気のスポットになっております。
「月が綺麗ですね。マリアさん」
「……はい、リク先生。マキナ世界の月はとても幻想的な月明かりをしていますね」
何だかとても良い雰囲気です。まさか、リク先生とこのまま……
「では、明日は朝が早いですし、そろそろ野営所へと戻りましょうか。マリアさん」
……あれ? 違います! リク先生。そこは《マリアさん。もう少し共に夜の月陰の輝きを見ながら、詩を紡ぎましょう》と言って頂ければ、とても嬉しいのですが……駄目みたいですね。
「はい、リク先生。今、そちらに向かいます…」
ガサッ……
「ガサッ?」
「ピュルルルルル!」
「キャアッ……白色の鳥?」
私がリク先生の方へと向かおうとした瞬間。草陰から1羽の鳥が飛び出して来ました。
「マリアさん。大丈夫ですか! あれは白怪鳥(イーグル)? 何故、この様な森に?」
「……リク先生。あの白い鳥はいったい?」
「〖ハーピストの渓谷〗に生息する、幻神鳥(ハーピィー)の眷属とされる鳥です。本来はこの様な場所には決して姿を現さないのですが……僕達が大勢で〖シルの森〗に入った事で警戒し、偵察に来たのかもしれませんね」
「警戒に、偵察ですか? あの白い鳥」
「えぇ、僕達が向かう、ハーピスト渓谷には幻神鳥(ハーピィー)の王が存在すると、遥か昔の〖手記録〗には残っていたのですが……そうですか。もう嗅ぎ付けて来るとは」
リク先生の表情が険しくなっていく、あの白い鳥が原因みたいですね。
ですが、あの白い鳥には私達への敵意はまるで感じられなかった。まるで私達を見守る様に見ていた様な……
〖シルの湖庭園〗逆側
「なぁ、アイナさんや」
「何よ。ロロギアさんや」
「マリーとリク達の方、少し騒がしくないか?」
「そう。それじゃあ、マリーは上手くやってるのね。良かったわ」
「……それでアイナさんは何をやってんだ? 森の地面に顔を押し付けて、何を探してんだよ」
「天薬草(エリクシア)や天茸(パラサ)かを探してるのよ。〖シルの森〗なんて滅多に来られる場所何だから、魔機開発で使える材料を調達するチャンスなのよ」
「……そうですかい。(……コイツ。久しぶりに俺と二人っきりになったくせに、何でマリーみたいに夜景や湖の月明かりを見たりしないんだ? 何で土にまみれて材料集めしてんだよ)」
ガサガサ……
「ん? ガサガサ?」
俺は音が聴こえた草木が揺れた方に目をやった。
「ここにいらっしゃいましたか、ロロギア隊長」
「……アーノルド? 何でお前がこんな所に居るんだ? 確か、今日の夜は、シルの森の中部辺りの調査任務だったよな?」
「え、えぇ……今は休暇中でして……そ、それよりも、ロロギア隊長。アーノルド呼びだけでは、他の方に間違われますわ。私の事はリーシャもしくは、リーシャ・アーノルドとフルネームで及び下さい」
「お、おう。それは済まなかった。リーシャ…アーノルド」
「はい。それでよろしくお願いします。それよりも、リク・テリクス様は何処にいらっしゃるのでしょうか? 以前、政庁で開かれた舞踏会で一度、御世話になったので御礼を言いたいのですが」
「……お前。リクなら、天薬草の〖記録〗を取るとかで、シルの森の入り口付近まで戻っちまったな」
「そうですか。それでは明日、シルの森の奥地で御会いした時に御礼を申し上げ様と思いますわ」
「そうか。なら、持ち場に戻れ、リーシャ・アーノルド。これは騎士団長としての命令だ」
「……はい、畏まりました。ロロギア騎士団長」
リーシャ・アーノルドはそう言うと、森の奥へと消えていった。
「……ロロにしては珍しく察したじゃない」
「いや、あの目を見ればな。血走ってたぜ……マリーって、この事は知ってるのか?」
「この事って何よ?」
「サーシャ・アーノルドがリクにご執心って話をだよ」
「知るわけ無いでしょう。マリーはシュリル家のご令嬢で、アーノルド家は騎士家の人なんだから、鉢合わせする場所なんて無いわよ」
「あれ? マリーってそんな高貴な身分だったか?」
「当たり前でしょう。お馬鹿、シュリル家はマキナ公国の重鎮でしょう! だから、今回はこれだけの人が動かせたのよ。分かった」
「あぁ、分かった。お前がそれに便乗して、好き放題している事が分か……だぁ? 痛てぇな! アイナ! 何、済んだよ」
「私の事はどうでも良いのよ。どうでもね。それよりも、あの子。サーシャ・アーノルドさんだっけ? ちゃんと見張ってなさいよ。やらかしそうなんだから」
「……分かってるよ。そんな事」
俺はそう言って、サーシャ・アーノルドが去って行った。草陰を見つめた。
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