第1話 〖シルの森〗へ

「〖ハーピストの渓谷〗への第一先遣隊は副騎士長〖アーノルド〗に従い。我々、調査隊本部が到着するまで〖シルの森〗との境目で待機してくれ」


「「「「「ハッ!」」」」」


「第二先遣隊は〖シルの森〗周辺の各村へ、我が〖マキナ公国〗調査隊が数日間滞在する説明にあたってくれ、それと衣食住の確保を」


「「「「「ハッ!」」」」」


「第三先遣隊は……」


「リク先生……私は今、凄い光景を目にしています」

「……右に同じね。とんでもない光景だわ」

「マリアさん。アイナさん。驚き過ぎですよ……いえ、僕も正直、驚いている所です。ですが、仕事中の彼はあんな感じなんですよ。信じられない程に真面目に仕事をこなすんですよ。おっと、どうやら、休憩に入った様ですから、呼んでみましょうか。ロロ」


 リク先生はそう告げると、鎧姿のロロギアさんに声を掛ける。


「(あーっすげぇ、だり~、アイナの奴めぇ! カンデラ家の権力をフル活用して、政庁と〖浮遊機城(クレピタークル厶)〗の上の奴等に圧力をかけやがって、おかげで久しぶりの休みが潰れちまったじゃ……) ん? リクの奴。俺の事を呼んでんのか?……暇だし護衛でもしてやるかな...」




「「キュルルルル!!!」」

「おぉ~! コラッ! 大人しくしろっ! リスナルク コルスヒル いやー、すみませんねぇ。政庁の方々。普段はもっと大人しい奴等なんですが、〖ハーピストの渓谷〗に近くなるにつれ、興奮し始めちまうんでさぁ」


 機集車(カーデル)を引く鳥獣種(リホース)が興奮しているのを、機集車(カーデル)を操る機主(リード)さんが宥めている。


 まぁ、鳥獣種が興奮するのも無理がない事だと、私も思う。


 マキナ公国領土の北の天地〖ルルイア〗の最北端にある〖ハーピストの渓谷〗は、人にとっても、天魔(テクス)にとっても、恐い場所とされている。


 本来なら政庁の決まりで〖シルの森〗近辺までしか、調査隊は派遣できません。    

 

 でも今回はアイナさんが用意してくれた〖天のルルエラ像〗のルルエラ様の加護により、〖ハーピストの渓谷〗への入る事が可能になり。


 数日前は少人数での調査隊編成が一転。政庁のトップ。カリオストロ・シュリル政長の命により、大団体での調査隊編成に変更される事になりました……

 

 つまり、私の御父様の心配性が発動し、ロロギアさんを筆頭とした騎士団の精鋭の方々。アイナさんが所属する〖開発課〗の資源調査隊の大所帯で〖シルの森〗へと数日間、滞在する事になりました。


 そして、〖シルの森〗へと辿り着いた後は、〖浮遊機城(クレピタークル厶)騎士団〗と共に〖ハーピストの渓谷〗へと赴きます。


「しかし、マリーの親父さんは相変わらず。過保護だねぇ、まさか俺の騎士団丸ごと派遣するかね。普通」


「まぁ、御父様ですから」


「カリオストロ様は家族を大事にされる方ですからね。それに〖ハーピストの渓谷〗は貴重な資源がある未開の地。〖天のルルエラ像〗があるのならば、多少のリスクを負ってでも、マキナ公国の精鋭部隊で未開の地の開拓をしたいのでしょう」


「娘は心配だけど、未開の地の開拓もするって、ちょっと変ね。それなら、政庁の力で、この世界のどこかにある別の〖ユグドラの万能薬〗を探してくれても良さそうだけど」


「そんなの何かしらの大義名分がなきゃ、大きく動けないだろうよ。今回は〖ハーピストの渓谷〗の未開の地の開拓つう、マキナ公国にプラスになる事が絡んでるから、こんな大団体が形成され……痛ぇぇ! アイナ! 何でいきなり殴るんだよ!」


「うるさいわねぇ……そんなのロロに言われなくたって、分かってるわよ。アホ……それよりも今回は危ない場所に行くんだから、私やマリーをちゃんと守るのよ。騎士団長様」


「お、お前なぁ、何、機嫌悪くなってんだよ……」


 ロロギアさんとアイナさんがイチャつき始めました。いつも通りにですね。


「ニャオーン。まだ、夜にならないのかい? マリー。ボク、昼は起きてられないよ」

「それなら、揺り篭の中で寝ていなさい。ルナ」

「ニャーン。分かったよ~、マリー……」


 私はルナと会話をしていたすると。


「そろそろ〖シルの森〗に着きますね。夜に何も起きないと良いのですが……」


 リク先生はそう告げると北の方角に眼を向けた。少しだけ、不安そうな表情を浮かべていました。






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