第2話 〖ユグドラの万能薬〗の開け方
〖とある図書館〗
この場所はとてもとても広い図書館。不思議な場所だった。
私がこれまで書いた〖手記〗が保管されている。
リク先生が〖記録〗した全ての書類が、その本棚には置かれている。
政庁が管理する大図書館よりも多い〖魔機界(マキナ)〗に存在するありとあらゆる本が収納されていて、私は凄く驚いてしまった。
「リク先生‥‥‥ここはいったい何処なんですか?確か、私達はさっきまで、クリス商会が用意してくれた、オークション控え室に居た筈ですよね?」
「えぇ、今も居ますよ。控え室にはね。そして、ここは〖最果ての図書館〗の中です。マリアさん」
リク先生はそう言うと、〖シュトロノム家の歴史〗と〖クリス商会〗と書かれた手記帳を真剣な表情で読んでいる。
「〖最果ての図書館〗ですか?あの‥‥‥それはいったい?」
「下の世界の魔具(ミーティア)の一種です。格納魔機具だと思ってくれれば、分かりやすいでしょう」
「か、格納魔機具?‥‥‥私、そんな凄い魔具(ミーティア)聴いた事も見たこともありません。何故、そんな魔具(ミーティア)をリク先生がお持ちに?」
「まだ内緒です。何(いず)れはお教えしますけどね」
未知の魔具(ミーティア)に興奮する私に対して、リク先生は微笑みながら対応する。
「ですから、リク先生!」
「はい。まだ内緒ですね」
あっ、これははぐらかされる。リク先生は気まずくなると終始、笑顔で私が聞きたい事を教えてくれない時がたまにある。
「‥‥‥ズルいです。私の未知への探求が‥‥‥〖記録〗が‥‥‥〖手記〗したいのに‥‥‥ウゥゥ」
「えぇ、また今度、時間がある時に〖最果て〗についてはお教えしますよ。マリアさん」
私とリク先生がそんなやり取りをしていると‥‥‥
「駄目だ!リク、やっぱりどれだけ力や魔力を込めてもびくともしないぜ。〖契約〗で守られてやがるな」
「やはりそうですか。クリスさんの‥‥‥彼の言っていた事はこういう事でしたか」
「たくよう!クリスの奴。この世界での〖契約〗の重みを分かってんだろうな?こんな物に〖エクスの契約〗をかけやがって」
「〖エクスの契約〗‥‥‥この世界を創造したと言われる〖機神エクス〗と〖契約〗する事で、人、物、魔具(ミーティア)、魔法、国に至るまで、何らか制約と縛りを〖契約〗できると言われていますね」
「その〖エクスの契約〗がその〖ユグドラの万能薬〗にかけられているんですか?リク先生」
「でしょうね。だから、談話室を出る際にクリスさんは僕らにあんな事を言ったのでしょう」
▽
「悪いが俺も今、余裕が無く必死なんだ。全てはアリアを助ける為だからな‥‥‥その〖ユグドラの万能薬〗にある〖契約〗をかけておいた」
「〖契約〗?」
「あぁ、落札、武力、人脈、どんな方法でも良い、アリアを助けてやってくれ。じゃないとその〖ユグドラの万能薬〗は使い物にならないからな」
▽
「‥‥‥‥使い物にならないとは、約束を守らなければ、蓋を開ける事すら出来ない、という事だっんですね。リク先生」
「たくっ!クリスの奴。タダでくれるからとか言っときながら、こっちが約束を守らなければ〖ユグドラの万能薬〗を使わせない気でいやがったんだな」
「彼も自身の婚約者を救う為に必死なんですよ。恐らくは、この〖ユグドラの万能薬〗を手に入れたのだって、恐らくは〖歌手アリア〗人間に戻す為に手に入れた物なのでしょうね」
リク先生は〖ユグドラの万能薬〗を見つめながら難しい顔をしている‥‥‥‥そう、私も薄々は気づいていた。
クリスさんは自身の商会本部でオークションを開催して〖マキナ公国〗中からアリアさんを治すた為の〖モノ〗を探して集める為に、オークションを開いたんではないかと。
愛しているアリアさんを他の方達に、奪われない為に、私達に下げたくもない頭を下げて懇願した彼の熱意に私は応えてあげたい。
「リク先生。私、クリスさんとアリアさんが再び添い遂げられる様にお手伝いしてあげたいです。私はアリアさんについては良く知りませんが、あの傲慢なクリスさんが頭を下げて、何かしらの制約がかる〖エクスの契約〗までして、私達に懇願したこの願いを叶えてあげたい」
「‥‥‥‥マリアさんならそう言うと思いましたよ。貴女は昔から他者に優しお方ですものね」
「‥‥‥リク先生」
私とリク先生が見つめ合い‥‥‥雰囲気がポワポワし始める。
「‥‥‥‥良い雰囲気になってるとこ悪いんだけどな。いちを俺も居るんだ。そういうのは〖記録院〗でやろうぜ。しかも、今は時間が無いんだろう?」
「「‥‥‥失礼しました」」
ロロギアさんが私達を冷たい目で見てくる。
何ですか?その目は?!ロロギアさんだって私達が見ていない隙に、アイナさんといつも仲良く喧嘩してるじゃないですか!もうっ!
「‥‥‥しかし、この〖ユグドラの万能薬〗と言うのは、本当に色々な方々を翻弄(ほんろう)する代物ですね」
リク先生は〖ユグドラの万能薬〗を手に置いて苦々しい表情で見た。
「だろうな。その万能薬の効果を知る金持ちや権力者なら、どんな大金を出してでも欲しい代物だからな」
「そんなに凄いんですか?それは?」
「えぇ、呪いから始まり、あらゆる傷、毒、病、心の病気、身体の欠損‥‥‥果ては生死の境をさ迷う〖モノ〗‥‥それから何かを人へと戻す事も可能とし、治す事ができる〖ユグドラ家〗の天才児が造った薬ですらね」
「‥‥‥‥まぁ、造った奴には少し問題があるがな。最近は‥‥‥何をやってんだがな」
「ロロギアさん?」
ロロギアさんはそう告げると手に付けている腕輪を見つめた。
「‥‥‥‥とりあえず。この図書館での調べモノは終りました。では行きましょうか‥‥‥オペラとオークションという不可解な組み合わせの催(もよお)しが開かれる。クリス商会本社が誇る会場へと」
リク先生はそう告げると〖最果ての図書館〗にある扉を開け、クリス商会の控え室に異動した。
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